(筆洗)京都には「逆さ札」なる泥棒除けのまじないがあると聞く - 東京新聞(2015年12月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015121602000131.html
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京都には「逆さ札」なる泥棒除(よ)けのまじないがあると聞く。「十二月十二日」と書き、その紙を家のどこかに張っておく。これだけである。
なぜ、ひっくり返して張るのか。十二月十二日は天下の大泥棒、石川五右衛門がこの世に生まれた日と考えられているそうで、それが「逆さ」になっていれば、三条河原で釜ゆでにされた日の意味につながる。泥棒がその「逆さ札」を見て、無残な五右衛門の最期を思い、犯行を断念するのだという。
現在も逆さ札を張るお宅があるそうだが、今、それを見て「まずいっ」とひるむ悪者は相当の歴史通かもしれぬ。
これも「逆さ」に張った方がいいのではないか。考え込んでしまう。二〇一五年の世相を表す漢字として「安」が選ばれた。国民の意見を二分した安保法制の影響だろう。「安心してください」なる流行語も効いたか。
「(今年の漢字は)私にとっても『安』。安を倍増すると安倍になる」と胸を張る首相だが、乱暴な政治、不透明な経済、テロの相次ぐ国際情勢など、どこを切っても安心、安定の「安」の字を感じられぬ一年でもあった。選ばれた「安」は逆さまにした「不安」の「安」であり、「安」を求める願いだろう。
やはり逆さに張っておこう。そういえば、中華料理店などでは「福」の字を逆さに張るところもある。あれには「福」が至るとの意味があるそうだし。