(私説・論説室から)理性は武器にも勝る - 東京新聞(2015年12月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015121602000130.html
http://megalodon.jp/2015-1216-0933-06/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015121602000130.html

時計の針を十三年ばかり戻してみる。
9・11米中枢同時テロの報復で米国がイラク戦争開戦に踏み切ろうとしていた。最後の最後まで反対したのはフランス。「…平和的な武装解除を優先させる。これが、戦争と占領と蛮行を経験した欧州という古い大陸の古い国フランスのメッセージだ」。ドビルパン外相が国連安保理で行った高邁(こうまい)で力強い演説は世界中の指導者の心に響いた。
あの時の気高き精神をフランスは失ってしまったのか。間違った戦争を仕掛ける米国を諭したフランスが、今度は同じ過ちを犯しているように映る。パリ同時多発テロを企てたIS(イスラム国)の掃討に突き進む姿が。
厳戒下の首都でテロを許し多くの犠牲が出た衝撃は察するに余りある。自国民を守る責務の重さも、テロ根絶に向けた国際協調行動の必要性も分かる。相手が外交手段の通じないテロ集団だということも理解する。
だとしても「これは戦争だ」と冷静さを失い即武力に訴えるさまは人権大国にふさわしくない。移民同化政策が行き詰まり、極右勢力伸長に翻弄(ほんろう)される混迷をさらすだけだ。
しかし暗闇の中にも一筋の光明が見えてくるのが、この国の底力だ。最愛の妻を失いながら「テロリストの望みどおりに憎しみで応じるのは無知に屈することだ」と発信したジャーナリスト。理性という力である。「憎しみは贈らない…君たちの負けだ」 (久原穏)