へいわのうた 9条を描き出す人たち(6) 戦争題材 市民劇で問う:神奈川-東京新聞(2015年5月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/20150509/CK2015050902000158.html
http://megalodon.jp/2015-0510-1039-06/www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/20150509/CK2015050902000158.html

◆劇作家・小川 信夫さん(川崎市多摩区
「人の生き方や社会の問題点、世の中の矛盾をメッセージにして観客に伝える。それが劇作家の本道であり、私の使命」。川崎市民らでつくる川崎郷土・市民劇上演実行委員会はここ数年、戦争を題材に劇を上演してきた。同市多摩区の劇作家小川信夫さん(88)はその脚本を手掛け、今年で五回目となる。
二年前は、戦後の混乱の中を生きる川崎の人々を描いた「大いなる家族」が好評だった。劇中、市民が公布された「平和憲法」を喜ぶ一方、戦後わずか五年で警察予備隊が発足し、平和を願う元特攻隊の青年が戦争へと逆戻りしかねない状況に心を痛める。
今年は、太平洋戦争へと突き進む昭和初期を生きた川崎生まれの詩人佐藤惣之助の苦悩を描く「華やかな散歩」を書き下ろした。「赤城の子守唄」など昭和の流行歌を作詞した佐藤が、軍部に目を付けられ戦時歌謡を書くようになる姿を描いた。
自身の戦争体験と史実を基に、創作を重ねた会心の作品の数々。時代背景にしっかり触れながらも、思想を押しつけるような描き方はしない。
「押しつけると、ドラマとして面白くない。劇を見て、今とは違う時代だったのか、現代は当時に似てきたのか、などと、いろいろ考えてもらいたい」
小川さんは一九二六年生まれ。「日本が転がり落ちていく昭和初期を生きてきた」。十七歳の時、県内の中学から海軍予科練に志願して飛行隊員になった。
「あの時、特攻に矛盾は感じていなかった。滅私奉公。国のために死ぬ。そういう教育をたたき込まれていた」
 三重県茨城県の土浦、山口県の岩国などをへて、特攻基地となっていた鹿児島県の鹿屋(かのや)基地に就いた。特攻に向かう仲間の戦闘機を先導し、電波信号で誘導する任務。自分にも特攻の順番が訪れるかもしれない中、多くの仲間を見送った。
戦後に教員免許を取ったが、公職に就くことはしばらく禁じられ、新聞社勤務などをへて劇を書くようになった。
大義なんて何もない戦争だった。日本にまともな思考があったなら無駄死になどさせなかったはず。それが一番悔しい。大切なのは思考を止めないこと。自分で考え、みんなで徹底的に討論すること」
集団的自衛権の行使容認には「九条を守れと理想論を掲げている間に、内閣に都合よく憲法を解釈され、物事を進められるのが怖い」。一方で、理想論だけで追いつけない現実も国際社会の中の日本に迫る。だからこそ「思考を止めてはいけない。九条について国民がきちんと議論すべきだ」と言う。
「われわれは多様な情報を入れ、多様に判断する力を持たなければいけない」。そしてこう続ける。「もっと思考のバネを」
「華やかな散歩」は今月、川崎市内で上演される。さまざまなことを考え続けてほしいと願いを込めて。 (上條憲也)=おわり