<原発のない国へ 基本政策を問う>(3)石炭火力 新増設 時代に逆行 依存なお - 東京新聞(2018年7月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071602000125.html
https://megalodon.jp/2018-0716-1025-59/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071602000125.html


サッカーJリーグJEF(ジェフ)ユナイテッド市原・千葉の本拠地、千葉市沿岸のスタジアムの目と鼻の先に二〇一六年末、火力発電所の新設計画が持ち上がった。燃料は、石炭。建設に反対する元市議の小西由希子さん(59)が憤る。「粉じんの飛散が心配です。環境への影響も大きいのに、なぜ今さら石炭なのか…」
石炭火力の新増設計画が急増している。一一年三月の東京電力福島第一原発事故後、原発停止が続いたため、電力会社は需要を賄おうと石炭火力に頼った。
環境保護団体「気候ネットワーク」によると、既存の石炭火力は約百基だったが、一二年以降に約五十基の新増設計画が浮上。うち六基の計画が東京湾岸にあり、中部電や中国電、九電が出資する関連会社が名乗りを上げた。一六年から始まった電力小売り自由化に伴い、各社は大消費地の首都圏への進出を図る。
「価格が乱高下しやすい液化天然ガス(LNG)に比べ、石炭は価格も供給も安定している」。千葉市で石炭火力を計画する中国電出資の千葉パワーの広報担当者が強調した。
政府は、三〇年の発電量に占める石炭火力の割合を26%とする。一六年時点の32%から下げるものの、LNGと石油がさらに減るため、火力発電の中での石炭の比率はむしろ高まる。
石炭火力が多くなれば、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出量が増える。石炭火力のCO2排出量は、高性能な設備でもLNGの二倍に上る。
政府の三〇年時点での目標は、一三年比で温室効果ガス26%減。だが、英国石油大手BPの統計で、日本の石炭消費量は一七年に四年ぶりに増えた。気候ネット東京事務所長の桃井貴子さん(45)は嘆く。「時代に逆行している。日本は世界から取り残されている」
一五年に採択された温暖化対策の世界的な枠組み「パリ協定」以降、脱石炭は最重要課題。フランスは二三年、英国は二五年をめどに石炭火力を全廃する方針で、脱原発を進めるドイツも、廃止時期を含む最終案を年内にまとめる。桃井さんは「日本の石炭火力の事業者は『ドイツは脱原発を進める分、脱石炭はできていない』と言い訳してきたが、理屈が成り立たなくなる」と指摘した。
国内の石炭火力の新増設計画は順調というわけではない。千葉県市原市内での新設を含めた七つの計画が「採算が採れない」などと中止に。仙台市では地元の反発を受け、事業者が木くずを固めた燃料(木質バイオマス)に換える。
海外では、多くの金融機関が石炭火力への投資から手を引き始めた。国内でも、三井住友銀行が低効率の石炭火力に融資しないことを表明。日本生命保険は全面的に投融資を停止するという。融資のハードルが上がれば、事業者は資金が調達できず、計画撤退につながるリスクが増す。
政府はパリ協定で求められるCO2削減の具体策を示せぬまま、石炭の活用を続けようとしている。 (内田淳二)
......

<原発のない国へ 基本政策を問う>(2)金食い虫 企業も見切り - 東京新聞(2018年7月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071502000119.html
http://web.archive.org/web/20180715030418/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071502000119.html

米ニューヨーク・マンハッタンの西を流れるハドソン川。摩天楼の足もとから五十キロほどさかのぼると、景勝地として名高い渓谷に二基の原子炉が並ぶ。電力会社エンタジーが計画を十四年前倒しし、二〇二一年までに閉鎖することでニューヨーク州と合意したインディアンポイント原発だ。
「ニューヨーカーの安全と健康を守るためだ」。一七年一月に合意を発表したクオモ州知事は、世界有数の人口過密都市に近い同原発の危険性を「時限爆弾」と表現していた。
ただ、エンタジーが危険性を認めて折れたわけではない。合意の理由は「卸価格の低迷と操業コストの上昇」と同社広報担当のジェリー・ナッピさん(46)は語る。
シェールガス革命による安価な天然ガス発電に押されたうえ、原発は維持管理に必要な安全対策や老朽化対策の費用がかさむ。結果として採算が合わなくなった。.......

<原発のない国へ 基本政策を問う>(1)英原発 高コスト浮き彫り - 東京新聞(2018年7月14日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071402000130.html
http://web.archive.org/web/20180714030703/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071402000130.html

英国会計検査院が昨年六月、原発推進の妥当性を揺るがす試算を明らかにし、政府批判に踏み切った。「政府は消費者をリスクの高い、高額な計画に縛り付けようとしている」
イングランド南西部で、フランス電力と中国の電力会社が二〇二五年の運転開始を目指して建設を進めるヒンクリーポイントC(HPC)原発。百六十万キロワットの大型原発二基を建てるこの計画で、政府補助が総額三百億ポンド(四兆四千四百億円)に上るというのだ。.......

木村草太の憲法の新手(84)0歳児虐待死 適切な性教育が防止に重要 若年妊娠リスク教えて - 沖縄タイムズ(2018年7月15日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/283742
https://megalodon.jp/2018-0715-1007-00/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/283742

目黒での幼女虐待死が報じられてから、虐待防止のための議論が進んでいる。この連載でも、(1)裁判所の関与に基づく強制対応(2)家庭への相談・支援を実施する機関と、子どもの保護を行う機関との分離(3)強制調査や親子切り離しなどの基準策定(4)心中事案を防ぐための社会保障の充実(5)一時保護所・社会的養護の拡充−などを論じてきた。今回は、「0歳0カ月0日」の新生児虐待死について考えたい。
厚生労働省の最新の報告(子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について・第13次報告)によると、同省が把握した2015年度の心中以外の虐待死52人のうち、0歳児の死亡人数は30人。そのうち11人は「0日」、2人が「0カ月」で亡くなっている。心中以外の虐待死の4〜6割が0歳児、その中の4割程度が「0日または0カ月」との傾向は、少なくともこの十数年変わらない。
では、0歳児虐待死の問題を、どう解決すべきか。
目黒の事件を受けて、NPO法人の代表、医師、著名人らが「なくそう!子どもの虐待プロジェクト2018」を立ち上げ、「児童虐待八策」と題された提言をインターネット上で行っている。
この連載でも指摘したように、私自身は、児童虐待八策中の「児相の虐待情報を警察と全件共有をすること」との提言は、行き過ぎだと考えている。他方、「若年妊娠リスクや子育てについて早期から知る、包括的性教育を義務教育でしてください」という提言は、新生児虐待死の実態を踏まえれば、極めて重要だと考える。
厚労省の調査によれば、「0日または0カ月」の虐待死加害者の90%以上が「実母」だ。また、03年の調査以降、0日での虐待死事案124人のうち、57人の実母が24歳以下となっている。
新生児虐待死は、妊娠・出産そのものが望まれていなかったことによるものも多いだろう。望まない妊娠は、性的知識が不足していることによっても生じる。虐待死防止には、かなり若い段階から、適切な性教育を行うことが必要なのは明らかだ。
また、たとえ適切な性教育を受けても、望まない妊娠はあり得る。望んだ妊娠であっても、妊娠中はさまざまな不安があるものだ。そうした不安を解消するため、妊娠中の女性やそのパートナーへの相談・支援を拡大しなければならない。
さらに、出産後の養育に困難がある人のために、社会で子どもを育てるという発想も必要だ。子どもの養育は、必ずしも生みの親でなくてもできる。生みの親に、子育ての困難があるのならば、養護施設や里親に預かってもらいながら、できる範囲で子育てに関わっていくという選択肢もあろう。
また、世の中には、実子をもつことができなかったが、子育てをしたいと願っている人もいる。生みの親との関係を断って、新たな親子関係を築く特別養子縁組制度についても、国民の理解を広げてほしいと思う。
子どもの成長を見守るのはとても楽しいが、当然、大変な面もある。育児を家族だけで負うのは困難だ。子育ての楽しさと困難を、社会で分かち合う必要がある。(首都大学東京教授、憲法学者

<核なき世界目指して> (4)日本主導で「非核地帯」を - 東京新聞(2018年7月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018071202000224.html
https://megalodon.jp/2018-0712-1640-22/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018071202000224.html

−六月の米朝首脳会談で署名した共同声明は、北朝鮮の非核化への道筋が具体的に書かれなかった。
「完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)が明記されず、漠然としているという議論があるが、北朝鮮からすれば『安全の保証』も検証可能で不可逆的である必要がある。現時点では、非常にバランスのとれた妥当な合意だ。どっちが得した、損したということではない」
−非核化の行方は。
「ステップ・バイ・ステップ(一歩ずつ)でいくしかない。北朝鮮は、公開した施設以外で(核兵器に利用可能な)ウラン濃縮をしている可能性がある。まず現状の把握が必要だ。次のステップとして無能力化、最後に(核兵器や施設の)解体がある。その間に多様なギブ・アンド・テークがある。米朝で行程について協議するのだろう」
−長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)は「北東アジア非核兵器地帯」を提言している。
南北朝鮮と米国の非核化努力には、中国、ロシアを巻き込まざるを得ない。北朝鮮は米国からの安全の保証と同時に、在韓米軍を含めて韓国の検証可能な非核化を求めている。米国の核抑止力は、中ロにも働いていた。在日米軍北朝鮮や中ロへの抑止力なので、日本も組み込まれるのが自然だ」
−日本の役割は。
「日本は北朝鮮の脅威を強調し、核不拡散を訴えてきた。不拡散だけでは軍縮は進まず、核拡散防止条約(NPT)は空洞化している。朝鮮半島を巡る核状況が好転したとき、日本は核不拡散から核軍縮にかじを切る役割を果たすことができる。先取りして、被爆国として非核兵器地帯を提案すべきだ」
−日本も米国の核の傘から外れるべきか。
「周辺国は、日本が核の傘から外れると核武装すると考えてきた。だが非核兵器地帯にすれば、日本は核武装をしないことを法的に約束し、核保有国も日本に対して核攻撃しないという仕組みに入っていく。非核兵器地帯条約交渉を進めることは、北朝鮮との国交正常化の促進にもなる」 (聞き手・大杉はるか)
=おわり

<核なき世界目指して>(3)まず核兵器の役割低減 - 東京新聞(2018年7月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018071102000173.html
https://megalodon.jp/2018-0711-0923-18/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018071102000173.html

核兵器禁止条約が昨年七月に国連で採択された当時に外相を務めていた。なぜ条約交渉に参加しなかったのか。
核兵器のない世界を実現する議論には、積極的に参加すべきだと思っていた。だが核兵器保有国や、日本と協力してきた中道国(核抑止力に依存する国)が条約に反対という実態が明らかになった。交渉が進めば関係国の対立がより深刻になると判断した。核なき世界実現のため、辛抱強く核保有国を巻き込み、非保有国と協力しなければならない」

−禁止条約には広島、長崎の被爆者の声も反映されている。

被爆者や自治体、推進NGOとは広い意味で目標は共有しているものの、それぞれ役割がある。核保有国、中道国と直接議論して協力する政府として、ぎりぎりまで考えた」

−今後も禁止条約への参加は難しいか。

「日本は(禁止条約のような)法的枠組みを否定していない。安全保障に対する冷静な認識と、核兵器の非人道性に対する正確な認識の下、(まず)核兵器の数、役割、意義の低減を訴える。それらがある程度下がったところで、法的枠組みを導入する」

−米国の核抑止力に頼る日本が、米国に対して核軍縮を主張できるのか。

「対話や議論はしている。どこまで強く言えるかは、その時の国際情勢や米政府の対応による。たとえばオバマ政権とトランプ政権では違う」

北朝鮮の非核化問題をどう見通すか。

米朝首脳会談は一つの大きなきっかけだが、非核化の行程、期限も明らかになっておらず、楽観できない。急に制裁緩和や経済支援の話まで出る雰囲気があり、心配に思う」

−日本はどう取り組むべきか。

北朝鮮の中・短距離弾道ミサイルや日本人拉致問題は日本独自の課題。直接交渉を考えていかなければならない。非核化を議論する推移の中で、日本としてどう議論に加わるのか知恵を出したい」

北朝鮮の非核化の行方は、日米の安保関係にも影響するか。
「可能性はある。行方次第では日本で核なき世界と逆行する(核保有)議論が巻き起こるかもしれない。注視する必要がある」 (聞き手・大杉はるか) 

<きしだ・ふみお> 1957年、東京都生まれ。早稲田大卒業後、銀行員を経て、93年衆院選で旧広島1区から立候補し初当選。9期目。2012年末から昨年8月までの4年8カ月にわたって外相を務め、16年のオバマ米大統領(当時)広島訪問の実現に尽力した。

<「働き方」どう変わる>(4)年休と残業代 環境整備 働く側に利点も - 東京新聞(2018年7月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018071102000178.html
https://megalodon.jp/2018-0711-0921-32/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018071102000178.html


「働き方」関連法には、労働者の働き方や待遇改善につながる内容も盛り込まれた。代表的なものは、年次有給休暇(年休)の取得促進と、中小企業の残業代の引き上げだ。
労働基準法により、年休は仕事を休んでも給与が発生する休日で、働いた年数に応じて日数が与えられる。例えば、一年六カ月働いたら十一日、六年六カ月以上だと二十日与えられる。
年休取得は労働者の権利だが、「職場に負担をかける」といった心理的なためらいから十分な取得は進んでいない。厚生労働省の調査によると、二〇一六年の取得率は49・4%で五割に満たない。独立行政法人が一一年に行った調査では、一年で一日も年休を使わなかった人は16・4%いた。
今回改正された労働基準法では、年十日以上の年休がある労働者に対して、このうち五日は必ず取得することとし、企業側は労働者の希望を聞いた上で時季を指定する。年五日の有休を消化できない労働者がいる企業には罰金を科す。
政府は二〇年までに年休取得率を70%とすることを目標にしており、今回の義務化で社員が休みやすくする環境を整える。一九年四月から施行する。
中小企業の残業代の引き上げでは、現在は大企業に比べて低く抑えられている月六十時間を超えた分の割増賃金率を大企業と同等にする。
具体的には、月六十時間超の残業に対する割増賃金率を現在の25%から50%にする。時給が千円の労働者の場合、残業が月六十時間を超えた分は千五百円となる。二三年四月から施行となる。
残業代が引き上げられることで労働者にとっては収入増や残業の減少などのメリットがあるが、企業側にとっては人件費増につながる可能性がある。 =おわり
(この連載は、木谷孝洋が担当しました)

<「働き方」どう変わる>(3)同一労働同一賃金 非正規の待遇改善図る - 東京新聞(2018年7月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018071002000127.html
https://megalodon.jp/2018-0710-0858-11/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018071002000127.html


同一労働同一賃金」は正社員と非正規社員との不合理な待遇差を解消し、非正規の待遇改善を図る考え方だ。非正規社員とは有期契約やパート、アルバイトを指す。条文に「同一労働同一賃金」の文言はなく、パートタイム労働法や労働者派遣法に正規と非正規の間に不合理な待遇の格差を禁止することを定めた。
非正規で働く人は二千万人を超え、労働者全体の約四割を占める。欧州に比べて低い処遇を受けてきた非正規の待遇を着実に改善することが求められる。正社員との待遇差の解消には、「均等待遇」と「均衡待遇」の二つの方法がある。
均等待遇は、仕事の内容や配置変更の範囲が同じであれば給与や賞与で同等の取り扱いをしなければならないという規定。例えば、ある職場でパートタイムで働く人が正社員と同じ仕事を行い、異動の範囲も同じであれば、給与で差別することを禁じる。
均衡待遇では、正社員と非正規社員の間で仕事の内容に違いがある場合、一定の格差を認める一方で、その格差が不合理と認められない程度にすることを定めた。この場合、基本給や賞与、各種手当のそれぞれに関し、不合理かどうかを判断すべきだと明確にした。労働者が待遇差について説明を求めた場合、企業に説明する義務も盛り込んだ。
派遣労働者に関しては、派遣先企業で同様の仕事をする人と均等待遇か均衡待遇を行うよう定めた。ただ、派遣元企業で労使が協定を結べば、派遣先企業と関係なく待遇を決められる「労使協定方式」も採用した。派遣元企業が労使協定方式を採れば、派遣先企業の正社員との待遇格差を縮める必要がなくなり、派遣社員の待遇改善につながらない恐れがある。

<「働き方」どう変わる>(2)残業規制 月100時間未満、高い上限 - 東京新聞(2018年7月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018070702000157.html
https://megalodon.jp/2018-0707-1554-58/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018070702000157.html


「働き方」関連法は、二〇一五年に大手広告代理店電通の社員だった高橋まつりさんが過労死した事件が社会問題化したことが、制定への後押しになった。柱の一つには、一九四七年の労働基準法制定以来初めてとなる残業時間の罰則付き上限規制が盛り込まれた。
これまでは労使で合意すれば残業時間を上限なく設定できた。「働き方」関連法では、月四十五時間、年三百六十時間を原則とし、繁忙期でも年七百二十時間以内、月百時間未満、二〜六カ月平均八十時間以内とした。月四十五時間を超えられるのは年六回までとなる。違反した企業には六月以下の懲役または三十万円以下の罰金が科される。大企業は二〇一九年四月、中小企業は二〇年四月から施行される。
上限規制は、長時間労働の是正に一歩前進だが、上限が高すぎることに批判もある。月百時間、二〜六カ月平均で八十時間は、過労死を認定する際の基準となる。法律でその水準を容認することで「過労死認定が難しくなる」との懸念が過労死遺族らから出ている。
年七百二十時間の上限には、休日労働が含まれていない。これを含めると年九百六十時間の残業が可能になる点も指摘された。
規制の適用が除外される業種が多いことも課題だ。過重労働が著しい建設、自動車運転(運輸)、医師は五年間、適用が猶予される。運輸は五年後も他業種より緩い年九百六十時間の上限規制となる。人手不足や業務の特殊性を踏まえた措置だが、過労死の多い業界が「働き方改革」から置き去りにされる不安は根強い。
政府は残業時間規制の実効性を高めるため、全都道府県に「働き方改革推進支援センター」を設置し、中小企業などの取り組みを支援する。

<「働き方」どう変わる>(1)高プロ 労働時間、規制なくなる - 東京新聞(2018年7月6日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018070602000126.html
https://megalodon.jp/2018-0706-1025-10/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201807/CK2018070602000126.html


今国会の最大のテーマである「働き方」関連法が成立した。七十年ぶりの大改革と言われる労働法制の見直しで働く人の環境はどう変わるのか。主なポイントを解説する。
「働き方」関連法では、全く新しいタイプの労働者が誕生することになる。「高度プロフェッショナル制度高プロ、残業代ゼロ制度)」で働く人たちだ。
高プロとは、一部専門職を対象に労働時間規制を外す制度。労働基準法が定める「一日の労働時間は八時間」といった労働時間に関するルールが全て適用されなくなり、働いた時間と賃金の関係が一切なくなる。残業代や深夜や休日に働いた場合の割増賃金も支払われなくなる。
対象者は金融ディーラーやコンサルタントなどの専門職で、「通常の労働者の平均給与の三倍を相当程度上回る水準」の年収を受ける人だ。政府は千七十五万円以上を想定し、具体的には今後、経済団体や労働組合が参加する労働政策審議会で決める。
制度を導入するにはいくつかの手順がある。導入を検討する企業は、経営者と労働者が参加する労使委員会をつくり、そこでの五分の四以上の賛成で導入を決める。その後、対象となる仕事内容や労働者を決め、書面による本人の同意があって適用される。この同意は一年ごとに確認が必要で、労働者の意思で途中で離脱できる規定も盛り込まれたが、実際に離脱できるか疑問視する声もある。
高プロは何週間にもわたって一日二十四時間働くということも法律上は可能となる。そのため制度には健康確保策も講じられた。具体的には年百四日以上、四週で四日以上の休日の取得が義務となる。在社時間と社外で働いた時間の合計の「健康管理時間」が著しく長くなった場合は、医師の面接が必要となっている。
高プロは経済界が導入を強く要望する一方、労働界は反対し続けてきた。制度の詳細が決まっていない部分も多く、来年四月の施行に向けて慎重な議論が求められる。(この連載は木谷孝洋が担当します)

木村草太の憲法の新手(83)虐待 親制裁だけでは解決せず - 沖縄タイムズ(2018年7月1日)


http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/275786
https://megalodon.jp/2018-0701-1042-05/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/275786

目黒の幼児虐待死が報じられてから、(1)警察との情報共有(2)一時保護、親権停止−など親子切り離しの拡充が議論されている。前回に続けて、掘り下げてみたい。
まず(1)について。以前に虐待があった家庭など、虐待リスクが高いにもかかわらず、不自然に安否確認を拒否する場合など、強制的な措置や、警察との協力が必要なケースがあるのは確かだ(もちろん、強制的な措置をとるなら、裁判所による令状をセットにせねばならない)。ただ、「虐待が疑われる全事案」や「通報があった場合」について警察と全件共有すべきかについては、慎重に考えるべきだ。
警察は基本的には犯罪捜査機関であり、警察の介入は、「犯罪者だ」との嫌疑を社会に表示することになる。不用意に警察が介入すれば、親が地域社会や雇用の場で偏見の目にさらされ、かえって養育環境が悪化する危険もある。また、「児童相談所に通報すると、即座に警察にも伝わる」という前提では、今でもしづらい通報を、さらに躊躇(ちゅうちょ)してしまうことにならないだろうか。
21日、東京都で全庁横断の会議が開催され、情報共有の拡大が議論されたが、そこでも「通報全共有」ではなく、安否確認ができない場合と、虐待が確認されたケースの情報共有が必要と議論されている。
次に(2)について。親子の切り離しは、「体罰教員を学校から追い出せ」との主張ほど単純な話ではない。
まず、親子を切り離そうにも、子どもを保護する施設が足りない。入所できても、複雑な事情を抱えた子どもが集団で生活するため過度に厳しい規律を課しており、子どもにとって心休まる場所とは言えないケースが多々あるという。個室を用意し、一人一人のケアを丁寧に行えるだけの物的・人的援助が必要だろう。
さらに、教育が家庭の経済力に過剰に依存している現状では、家庭からの切り離しは、教育へのアクセスに大きな障害をもたらす可能性がある。例えば、里親や児童養護施設で社会的養護を受けた子たちに、大学進学への十分な機会が与えられるだろうか。虐待は必ずしも貧困家庭だけのものではなく、元の家庭の方が経済的に恵まれていることもある。このような状況で、親子の切り離し拡大だけを進めても、子の最善の利益は実現できない。
私はこの頃、ひどく気にかかっていることがある。虐待を受けた子どもが、自らの親を非難するのは当然だ。しかし、他人が虐待親を非難し、刑罰を科し、子どもから切り離したとして、子どもが救われるのだろうか。
厚生労働省の把握した「虐待死」の3分の1程度は、「心中」の事案だ。心中は、社会保障がうまく機能しないときに起きることが多い。2014年、銚子市で、生活保護が受給できず、公営住宅からの強制立ち退きを迫られた母が、中学生の娘を殺してしまう事件が起きた。
親を虐待に追い込んでいるのは、子どもを育てるのに十分な金銭的、時間的、精神的な余裕を与えない社会だ。親への制裁だけでなく、子どものための社会保障充実にも、ぜひ目を向けてほしい。(首都大学東京教授、憲法学者

子どものいま未来(15)佐喜真美術館 米軍用地を取り戻して建設 沖縄に「沖縄戦の図」を - 47news(2018年6月21日)

https://www.47news.jp/national/child-future/2478639.html
http://archive.today/2018.06.29-013720/https://www.47news.jp/national/child-future/2478639.html

木村草太の憲法の新手(82)目黒の幼女虐待死 強制力持つ調査機関を - 沖縄タイムズ(2018年6月17日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/268565
https://megalodon.jp/2018-0617-1012-18/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/268565

今年3月、東京都目黒区で5歳の幼女が虐待により亡くなった。
報道によれば、被害児童は、一家が香川県に在住中の2017年に、児童相談所から2度の一時保護措置を受けていた。父親も傷害容疑で書類送検されていたという。
17年12月に東京へ転居してから、品川の児童相談所(児相)は、香川の児相から連絡を受け、2月中に家庭訪問を行った。しかし、母親が被害児童との面会を拒絶した。今後の対応を検討中の3月2日に、被害児童は死亡するに至ったという。
こうした悲劇を繰り返さないために、何が必要なのか。
第一に、児相の人員不足は、これまでにも再三、指摘されていた。人員に余裕があれば、被害児童の状態を確認できるまで、もっと頻繁に家庭訪問ができただろう。
第二に、児相と警察の連携強化が必要との議論もある。小池百合子都知事は、6月8日の定例記者会見で、児相の人員増加の他に、警視庁との情報共有を進める考えを示した。
確かに、犯罪の嫌疑があるなら、警察との連携は重要だし、実効性もある。もっとも、警察は、「犯罪の嫌疑」がなければ、積極的な活動はできない。そして、現在の児相には、虐待の嫌疑を探知する以前に、虐待が行われる家庭にアクセスする段階で大きな壁があると言われる。
社会保障審議会の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果」(第13次、2017年8月発表)によれば、15年度に、厚生労働省が把握した虐待による死者は、72例・84人(そのうち、心中による殺人が24例・32人)。このうち、児童相談所の関与があったのは25例(心中事案が9例)にすぎない。
では、児相が関与を増やせるようにするには、どうしたらいいのか。虐待が疑われるにもかかわらず、親が面会を拒否した場合、強制的な調査はできないのか。
児童福祉法29条は、都道府県知事の判断で、児相の職員に「児童の住所もしくは居所または児童の従業する場所に立ち入り、必要な調査または質問をさせることができる」と規定する。
この条文を読むと強制力があるようにも思えるが、厚生労働省の「子ども虐待対応の手引き」は、「保護者が立ち入り調査を拒否し施錠してドアを開けない場合、鍵やドアを壊して立ち入ることを可能とする法律の条文がない以上、当然にできるとは解されていない」という(第4章6(2))。
なぜ、児相に強制的な立ち入り調査権限があることを法は明示しないのか。
児相は、児童虐待をしてしまう状況まで追い詰められた家族への支援も担っている。この任務を果たすには、家族との良好な信頼関係を築く必要があり、親の意向を踏みにじって、強制措置をとることには、ちゅうちょしてしまうケースも多いだろう。
児童の安否確認の重要性を考えるなら、継続的に家庭支援を行う機関と、虐待の有無を調査する機関を切り分けた上で、後者に、強制力的な調査権限を付与するべきではないか。また、強制調査には、当然、適正手続きが必要だから、住居への立ち入りは裁判所の許可を要求する仕組みも必要だろう。(首都大学東京教授、憲法学者

言わねばならないこと(110)奪われた自由 戦前想像して フリージャーナリスト・斎藤貴男さん - 東京新聞(2018年6月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2018061502000207.html
https://megalodon.jp/2018-0615-1603-05/www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2018061502000207.html

共謀罪」法(改正組織犯罪処罰法)の成立から一年。権力が市民を監視し、民主主義の絶対条件である「思想信条の自由」を奪う内容に危機を感じ、廃止を訴え続けてきた。その自由を安倍政権に奪われてしまったことに、改めて怒りと屈辱を感じている。
共謀罪は、テロの未然防止の名目で一般市民がテロリストか否かを見分けるところから捜査を始める。性悪説に立ち、市民を見張るべき対象に位置づけている。本来、見張るべき対象は権力側ではないのか。
この一年間に財務省の文書改ざんや自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)などの問題が次々と明らかになった。権力こそ暴走したら恐ろしい。「権力は判断を誤らない」という考えはもはや信用できない。
こういう話をすると「被害者意識ばかり膨らませている」と批判を受ける。確かに共謀罪の疑いで逮捕された人はまだいない。でもそれは、単に権力が逮捕しなかったということにすぎない。恣意(しい)的な判断で逮捕できるという現状は変わらず、むしろ社会は監視の度合いを強める方向に向かっている。
共謀罪法が成立した前年には通信傍受法が改正され、警察が会話を盗聴できる対象犯罪が広がった。今月から他人の罪を密告すれば自分の罪を軽くできる司法取引制度も始まっている。全ての動きは連動している。この国の「自由度」は極端に狭まっている。
気掛かりなのは、社会が現状に無関心であるように感じられること。戦争がない状態が当たり前の時代に育った人が大半を占めているから仕方ないかもしれない。だが、思想信条の自由が奪われた戦前を思い起こしてほしい。無理にでも想像する力を働かせないと、歴史は必ず繰り返される。

<さいとう・たかお> 1958年、東京生まれ。早稲田大卒。日本工業新聞週刊文春などの記者を経てフリーに。2013年から放送倫理・番組向上機構BPO放送倫理検証委員会委員。主な著書に「戦争経済大国」など。

木村草太の憲法の新手(81)悪質タックル問題 学生の人権守る教育を - 沖縄タイムズ(2018年6月3日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/261533
https://megalodon.jp/2018-0604-0951-14/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/261533

日本大学アメリカンフットボール部の選手が、試合中、意図的に反則行為をし、相手選手にけがを負わせた。この事件について、「法の支配」の観点から分析しよう。
加害側の監督・コーチは、「相手チームのQBをつぶしてこい」と指示したことを認めつつ、「反則しないのは当然であり、ルールの範囲内で思いっきりプレイせよ」との指令のつもりだった、と主張している。しかし、少なくとも当該選手は、「反則をしてでも、QBにけがをさせてこい」との指示が出た、と理解した。なぜ、学生代表になるほどの優秀な選手が、意図的な反則行為をするまでに追い込まれたのだろうか。
当該行為は、当然のことながら、スポーツとして許されない反則行為だ。さらに、被害者側が警察に被害届を出したことからわかるように、傷害罪(刑法204条)にあたる。刑法の条文を見たことがなくても、相手にけがをさせる意図で体をぶつければ犯罪となることは、小学生でも分かるだろう。
当該選手は、違法だと認識しながら、監督・コーチの指示を優先してしまった。これは、「法の支配」よりも、アメフト部内部の独自の規範を優先させてしまっていることの証だと思われる。
内部の独自規範を、法の支配に優先させる現象は、学校教育の現場で一般的に起こっている。
再三、重大事故の危険が指摘されているにもかかわらず、巨大な組体操や大人数ムカデ競走が、いまだに行われている。ここでは、「一体感」「試練を乗り越えての感動物語」のために、児童・生徒の生命・身体に対する重大な危険が無視されている。
あるいは、「体罰」の違法性について文部科学省が注意喚起しているにもかかわらず、「教育のための体罰は正当だ」とする人も少なからずいる。しかし、「体罰」は、学校を離れて、一般社会の目から見れば、暴行・傷害にあたる犯罪にすぎない。
子どもや学生が、指導を受ける立場にいるのは確かだ。しかし、彼らは、大人による管理・支配の対象物ではなく、人権の主体だ。学校において、今、必要なのは、子どもや学生の人権について、真剣に考えることだろう。
日大の事件で、監督・コーチは、「コミュニケーション不足」を反省していた。コミュニケーションは、相手の意思を尊重して初めて成り立つ。監督・コーチがコミュニケーション不足を認めることは、選手の主体性を無視し、力で管理・支配していたことを自白するようなものだ。指導すべき相手への尊重がない指示・命令は、もはや「教育」とは呼べない。
学校では、「教育・指導」の美名の下に、児童・生徒の人権侵害が正当化されがちだ。しかし、法と人権は、多様な個性を持つ人々が、共に生きていくための最低限のルールだ。法と人権を相対化するということは、誰かの権利が侵害されるということだ。
こうした不適切な指導をする大人たちは、往々にして「子どもの成長のために厳しく指導した」と言い訳する。しかし、それは、客観的に見れば、身体的・精神的虐待に他ならない。子どもの人権が守られる社会を、早急に実現せねばならない。(首都大学東京教授、憲法学者