木村草太の憲法の新手(84)0歳児虐待死 適切な性教育が防止に重要 若年妊娠リスク教えて - 沖縄タイムズ(2018年7月15日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/283742
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目黒での幼女虐待死が報じられてから、虐待防止のための議論が進んでいる。この連載でも、(1)裁判所の関与に基づく強制対応(2)家庭への相談・支援を実施する機関と、子どもの保護を行う機関との分離(3)強制調査や親子切り離しなどの基準策定(4)心中事案を防ぐための社会保障の充実(5)一時保護所・社会的養護の拡充−などを論じてきた。今回は、「0歳0カ月0日」の新生児虐待死について考えたい。
厚生労働省の最新の報告(子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について・第13次報告)によると、同省が把握した2015年度の心中以外の虐待死52人のうち、0歳児の死亡人数は30人。そのうち11人は「0日」、2人が「0カ月」で亡くなっている。心中以外の虐待死の4〜6割が0歳児、その中の4割程度が「0日または0カ月」との傾向は、少なくともこの十数年変わらない。
では、0歳児虐待死の問題を、どう解決すべきか。
目黒の事件を受けて、NPO法人の代表、医師、著名人らが「なくそう!子どもの虐待プロジェクト2018」を立ち上げ、「児童虐待八策」と題された提言をインターネット上で行っている。
この連載でも指摘したように、私自身は、児童虐待八策中の「児相の虐待情報を警察と全件共有をすること」との提言は、行き過ぎだと考えている。他方、「若年妊娠リスクや子育てについて早期から知る、包括的性教育を義務教育でしてください」という提言は、新生児虐待死の実態を踏まえれば、極めて重要だと考える。
厚労省の調査によれば、「0日または0カ月」の虐待死加害者の90%以上が「実母」だ。また、03年の調査以降、0日での虐待死事案124人のうち、57人の実母が24歳以下となっている。
新生児虐待死は、妊娠・出産そのものが望まれていなかったことによるものも多いだろう。望まない妊娠は、性的知識が不足していることによっても生じる。虐待死防止には、かなり若い段階から、適切な性教育を行うことが必要なのは明らかだ。
また、たとえ適切な性教育を受けても、望まない妊娠はあり得る。望んだ妊娠であっても、妊娠中はさまざまな不安があるものだ。そうした不安を解消するため、妊娠中の女性やそのパートナーへの相談・支援を拡大しなければならない。
さらに、出産後の養育に困難がある人のために、社会で子どもを育てるという発想も必要だ。子どもの養育は、必ずしも生みの親でなくてもできる。生みの親に、子育ての困難があるのならば、養護施設や里親に預かってもらいながら、できる範囲で子育てに関わっていくという選択肢もあろう。
また、世の中には、実子をもつことができなかったが、子育てをしたいと願っている人もいる。生みの親との関係を断って、新たな親子関係を築く特別養子縁組制度についても、国民の理解を広げてほしいと思う。
子どもの成長を見守るのはとても楽しいが、当然、大変な面もある。育児を家族だけで負うのは困難だ。子育ての楽しさと困難を、社会で分かち合う必要がある。(首都大学東京教授、憲法学者