木村草太の憲法の新手(82)目黒の幼女虐待死 強制力持つ調査機関を - 沖縄タイムズ(2018年6月17日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/268565
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今年3月、東京都目黒区で5歳の幼女が虐待により亡くなった。
報道によれば、被害児童は、一家が香川県に在住中の2017年に、児童相談所から2度の一時保護措置を受けていた。父親も傷害容疑で書類送検されていたという。
17年12月に東京へ転居してから、品川の児童相談所(児相)は、香川の児相から連絡を受け、2月中に家庭訪問を行った。しかし、母親が被害児童との面会を拒絶した。今後の対応を検討中の3月2日に、被害児童は死亡するに至ったという。
こうした悲劇を繰り返さないために、何が必要なのか。
第一に、児相の人員不足は、これまでにも再三、指摘されていた。人員に余裕があれば、被害児童の状態を確認できるまで、もっと頻繁に家庭訪問ができただろう。
第二に、児相と警察の連携強化が必要との議論もある。小池百合子都知事は、6月8日の定例記者会見で、児相の人員増加の他に、警視庁との情報共有を進める考えを示した。
確かに、犯罪の嫌疑があるなら、警察との連携は重要だし、実効性もある。もっとも、警察は、「犯罪の嫌疑」がなければ、積極的な活動はできない。そして、現在の児相には、虐待の嫌疑を探知する以前に、虐待が行われる家庭にアクセスする段階で大きな壁があると言われる。
社会保障審議会の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果」(第13次、2017年8月発表)によれば、15年度に、厚生労働省が把握した虐待による死者は、72例・84人(そのうち、心中による殺人が24例・32人)。このうち、児童相談所の関与があったのは25例(心中事案が9例)にすぎない。
では、児相が関与を増やせるようにするには、どうしたらいいのか。虐待が疑われるにもかかわらず、親が面会を拒否した場合、強制的な調査はできないのか。
児童福祉法29条は、都道府県知事の判断で、児相の職員に「児童の住所もしくは居所または児童の従業する場所に立ち入り、必要な調査または質問をさせることができる」と規定する。
この条文を読むと強制力があるようにも思えるが、厚生労働省の「子ども虐待対応の手引き」は、「保護者が立ち入り調査を拒否し施錠してドアを開けない場合、鍵やドアを壊して立ち入ることを可能とする法律の条文がない以上、当然にできるとは解されていない」という(第4章6(2))。
なぜ、児相に強制的な立ち入り調査権限があることを法は明示しないのか。
児相は、児童虐待をしてしまう状況まで追い詰められた家族への支援も担っている。この任務を果たすには、家族との良好な信頼関係を築く必要があり、親の意向を踏みにじって、強制措置をとることには、ちゅうちょしてしまうケースも多いだろう。
児童の安否確認の重要性を考えるなら、継続的に家庭支援を行う機関と、虐待の有無を調査する機関を切り分けた上で、後者に、強制力的な調査権限を付与するべきではないか。また、強制調査には、当然、適正手続きが必要だから、住居への立ち入りは裁判所の許可を要求する仕組みも必要だろう。(首都大学東京教授、憲法学者