<ぎろんの森>無理が通れば、道理は… - 東京新聞(2022年7月30日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/192698

「無理が通れば道理が引っ込む」。辞書によれば、正しい道から外れたことが行われるようになれば、正しいことが行われなくなる、という意味ですが、近ごろの政府や自民党の振る舞いを見ると「無理を通そうとしている」としか思えません。

いずれも故安倍晋三元首相の追悼に関わることです。

一つ目は「国葬」。政府は安倍氏国葬を九月二十七日に東京・日本武道館で行うことを閣議決定しましたが、国葬を定めた法律はなく、国の儀式に関する事務を内閣府の所掌とする「内閣府設置法」を根拠とする政府の論法は、いかにも無理があります。

社説でも、そうした問題点を指摘してきました。せめて国権の最高機関である国会が議論して決めるべきなのに、岸田文雄首相は応じない、野党側が説明を求めても拒む。これでは国民の理解が得られるわけがありません。

報道各社の世論調査によると、国葬を巡る賛否は二分されているのが現状です。

本紙にも読者から「税金の無駄遣い」「民意を無視した決定」など、国葬反対の意見が相次いで届きます。安倍内閣当時の森友・加計両学園や「桜を見る会」を巡る問題、旧統一教会との関係の深さを問題視する意見もあります。

岸田首相は国民分断の中、何の手だても講じず、国葬を強行するのでしょうか。

もう一つは国会での追悼演説です。元首相の追悼ですから、首相経験者や、野党の党首らが登壇するのが慣例ですが、自民党内で当初、名前が挙がったのは、同じ自民党甘利明前幹事長でした。

甘利氏は安倍内閣で閣僚を務めた盟友であり、遺族の希望でもあるそうですが、党派を超えて追悼するという演説の趣旨には合致しません。

結局、甘利氏の発言に対して自民党安倍派内から反発も出たことから、追悼演説自体が延期される方向になりましたが、無理は通らないということでしょう。

「政治は最高の道徳」との言葉を残したのは浜口雄幸元首相=写真=です。岸田首相には、この先達の言葉を心に刻み、参院選後の政治に臨んでほしいと思います。 (と)