検事長の定年 解釈変更していいのか - 東京新聞(2020年2月17日)

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東京高検検事長の定年延長をめぐり、政府が法解釈を変更したことを認めた。これでは国会で決めた法がどう運用されるか、政府次第となる危うさがある。法の安定が揺らぐ事態といえる。
検察庁法は検察官の定年を六十三歳、検事総長のみ六十五歳と定めている。東京高検の黒川弘務検事長は今月七日に定年を迎えるはずだったが、先月末に国家公務員法に基づき定年を半年間、延長する閣議決定をした。これが問題の発端である。
立憲民主党山尾志桜里氏が国会議事録を調べたところ、一九八一年に人事院が「検察官と大学教員は既に定年が定められ、国家公務員法の定年制は適用されないことになっている」と国会答弁していたことが判明した。
すると閣議決定との整合性がとれなくなり、検事長の定年延長は違法の可能性が出てくることになる。山尾氏は、これを国会で質問した。
安倍晋三首相は十三日の衆院本会議で、かつての解釈については認めたものの、「検察官の勤務延長に国家公務員法の規定が適用されると解釈することにした」と述べた。つまり法解釈を変更したわけだ。
新たな政府の見解は、検察庁法の特例が「定年年齢」であり、「定年延長」は特例でないから国家公務員法を適用するというものだ。詭弁(きべん)そのものではなかろうか。検察庁法は訴追機関という強権を持つゆえ、「検察官の職務と責任の特殊性に基づいて」の一文を入れ、定年を明記しているとされる。
法解釈を一内閣の一存で変更するのは「法の破砕」にも等しい。二〇一四年に集団的自衛権をめぐる憲法解釈を閣議決定で変更したときを思い出す。自分でルールを自在に変えながら、プレーしているのと同じだ。政府は何でもできる存在になりうる。
そもそも森雅子法相は黒川氏の定年延長について「重大で複雑な事件の捜査・公判に対応するため」と説明した。
法務省の秘書課長、官房審議官、官房長、事務次官と法務官僚のコースを歩んできた黒川氏がなぜ捜査や公判の指揮監督に不可欠なのか、全く理解されないであろう。
前例のない人事である。法解釈を変更してまで黒川氏の定年を延長するのは何ゆえか。いずれ検事総長に据えるつもりなら、官邸が捜査権力、訴追権力まで自在に操る恐れが出てくる。