ふるさと納税 勝訴で本質を見誤るな - 信濃毎日新聞(2020年1月31日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200131/KT200130ETI090007000.php
http://archive.today/2020.01.31-012248/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200131/KT200130ETI090007000.php

大阪府泉佐野市と国による異例の争いが、制度のゆがみを際立たせている。
総務省ふるさと納税制度から除外したのは違法とし、泉佐野市が決定の取り消しを求めた訴訟の判決が出た。大阪高裁は請求を棄却、国側が勝訴した。
故郷への恩返し、関心がある自治体を応援―。そんな制度の目的はとうに形骸化している。昨年6月に新制度へ移行してからも、過剰で不公平な寄付金獲得競争は収まっていない。
ふるさと納税制度は2008年に始まった。納税者が好きな自治体に寄付すると、2千円の自己負担分を除く全額が主に住民税から控除される。大都市の財源を地方に移す狙いもあった。
間もなく高額な「返礼品」を呼び水にした自治体の寄付金集めが過熱し、あたかもカタログギフト販売のような様相を呈した。
泉佐野市は最たる“成功例”なのだろう。地場産品ではない千種類以上の返礼品をそろえ、18年度は全国最多の497億円を集めている。「返礼品は寄付額の30%以下の地場産品」に限るとした国の是正通知に従わず、法改定後の新制度から除外された。
公判で市側は、通知は助言にすぎず、総務省が不利益な対応を取ったことは地方自治法に反すると訴えた。市長は「あるべき地方自治の姿を守りたい」と言う。
国と地方の対等な関係を重視する姿勢は理解できるものの、節操のない寄付金集めを棚に上げての主張では説得力を欠く。
阪高裁は判決で、他の自治体に比べ「不適切な方法で著しく多額の寄付金を受領した」と、市を批判した。事の本質は程度問題にとどまらない。
この制度はもともと、寄付者が暮らす地域の福祉や教育に使われる住民税をよそに回すという構造的な矛盾をはらむ。特産品が少ない市町村は不利な条件を強いられている。新制度でも地場産品と人気商品を抱き合わせたり、返礼品の調達費を過少に申告したりといった手段が横行する。
総務省は寄付額の上限を引き上げて利用を促す半面、異常な競争を長らく放置してきた。泉佐野市への特別交付税を大幅に削るなどし、確執を深めてもいる。
判決を受け、省内からは「安心して仕事に取り組める」との声が漏れた。ふるさと納税にお墨付きが与えられたわけではない。自治体の具体的な取り組みを応援する仕組みにできないのなら、続ける意義は極めて乏しい。