地上イージス 計画を白紙に戻すべきだ - 信濃毎日新聞(2019年12月12日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191212/KT191211ETI090007000.php
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計画を白紙にして、配備が必要なのか再検討するべきである。
地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」だ。政府が秋田市内に配備する現行の計画を見直す方向に転換した。
イージス艦と同様のレーダーやミサイル発射装置で構成し、飛来するミサイルを迎撃する。北朝鮮対処を念頭に2017年に2基の導入を閣議決定した。
計画では陸上自衛隊の新屋演習場(秋田市)と、むつみ演習場(山口県萩市、阿武町)が候補地になっている。地元では反発が根強い。候補地を決定した経緯も不透明である。
反対の理由はもっともだ。秋田では住宅密集地まで700メートルしかない。レーダー波が人体に影響する懸念がある。有事には施設が標的になる可能性も捨てきれない。
防衛省は事前調査で稚拙なミスも重ねた。根拠なく新屋演習場を候補に想定し、計画を進めたとしか思えない。見直しは当然だ。
陸自むつみ演習場も同様だ。防衛省は地形的に適しているという再調査の結果を、来週にも地元自治体に説明する予定だ。
阿武町では町長が明確に反対を表明し、配備反対の地元団体に町の有権者の半数以上が入会している。計画を進める環境にはない。
地上イージスの必要性に対する根本的な疑問もある。
日本防衛ではなく米国のための導入ではないか。北朝鮮とハワイ、グアムをつなぐ直線上に秋田、山口があり、米国へ向かうミサイルを迎撃することが想定されているという指摘が根強い。
専門家には、多用途に使えるイージス艦を増やす方がメリットは大きいという指摘もある。配備時期の25年には北朝鮮のミサイル技術が向上し、迎撃できない可能性も否定できない。
日ロ関係の新たな障害にもなるだろう。ロシアは巡航ミサイル「トマホーク」の発射が可能になるとして、安全保障の脅威になると主張している。懸念を取り除くのは簡単ではない。
効果に疑問があるのに経費は膨大だ。米国製の装備の取得費だけで4千億円以上だ。ミサイル取得費や土地の造成費などを含めるとさらに膨れ上がる。しかも米国が提示する金額や納期を受け入れる対外有償軍事援助(FMS)でしか購入できない。
貿易赤字削減を迫るトランプ米政権への配慮で最初から「購入ありき」だったのではないか。詳細な検証が国会でなされないまま計画を進めることは認められない。