https://mainichi.jp/articles/20191126/ddm/005/070/089000c
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市内の公共の場所でのヘイトスピーチを罰則付きで禁止する条例案を川崎市がまとめた。開会中の市議会で可決されれば、刑事罰を科す全国初のケースとなる。
ヘイトスピーチの解消に向けた取り組みを進める対策法が2016年に施行された。しかし、禁止規定や罰則はなく、実効性に疑問を示す見方があった。大阪市や東京都が条例を定めたが、罰則は設けていない。
川崎市の条例案は処罰の対象として、外国出身者や子孫に対するヘイトスピーチのパターンを示した。
居住地域からの退去や「生命、身体、自由、名誉、財産」への危害を扇動・告知することが対象になる。人以外のものに例えるなど、著しい侮辱も加えている。
これらに該当した人には市長がやめるよう勧告し、6カ月以内に繰り返せば、命令を出す。それに反し3回目になれば、氏名を公表し捜査機関に刑事告発する。裁判で有罪になれば最高50万円の罰金が科される。
川崎市には在日コリアンが多く暮らす地域があり、激しいヘイトデモが繰り返されてきた経緯がある。
市は全国に先駆けて昨年、ヘイトスピーチを行う恐れがあれば、公的施設の利用を制限するガイドラインを施行した。条例案もそうした規制の流れに位置づけられ、成立すれば一定の抑止効果が期待できる。
ただ、具体的(にどんな言動が処罰対象に当たるかの認定は難しい。条例案は市長の勧告や命令、刑事告発に当たって、学識者でつくる審査会の意見を聞くことにした。審査基準の公平性を保つ運用が欠かせない。
憲法が保障する表現の自由との兼ね合いで、懸念の声もある。公権力の行使が適切に行われるよう、市議会では罰則の適用対象をより明確にしていくような議論が求められる。
出自という本人にはどうにもならない点を捉えて特定の人種や民族の尊厳を傷つけ、社会的少数者を攻撃するヘイトスピーチは許されない。
デモは減少傾向にあるものの、インターネット上のヘイトスピーチは後を絶たない。法務局が削除要請を行うほか、大阪市は投稿者名を公表するなどしている。
だが、対策は追いついていない。根絶に向けて、実効性のある取り組みを検討し続けるべきだ。