川崎市ヘイト事前規制指針 在日コリアン「大きな一歩」 - 東京新聞(2017年11月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201711/CK2017111002000116.html
https://megalodon.jp/2017-1110-0940-38/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201711/CK2017111002000116.html

市立公園など公的施設でのヘイトスピーチ(憎悪表現)を事前規制するガイドラインを策定した川崎市。来年三月からは、ヘイトスピーチを行う恐れがある場合、市が施設を使わせないようにできる。ヘイト被害を訴えてきた市内の在日コリアンからは歓迎する声が上がる一方で、運用面の課題なども指摘されている。 (大平樹、山本哲正)
「私たちを被害から事前に守る策を行政機関が持ったことは心強い。大きな一歩だ」。ガイドラインが示された市議会を傍聴した同市川崎区の在日コリアン三世、崔江以子(チェカンイジャ)さん(44)は笑顔を浮かべた。
昨年六月施行のヘイトスピーチ対策法は、国や自治体にヘイト根絶に向けた取り組みを求めているが、ヘイトスピーチをした人に対する罰則はない。ここ数年、川崎市内で繰り返されたヘイトスピーチ。今回のガイドラインは、こうした被害を事前に食い止める効力を持っている。
対策法ができる前、市内でのヘイトデモの予告を受け、市に施設を貸さないよう要請したが断られた崔さん。「理念法と呼ばれている法律に川崎市が実効性を持たせた」と評価した。
ただ、表現の自由との兼ね合いや、「許可」「不許可」をどこで線引きするかなど、運用上の問題も残されている。
専修大山田健太教授(言論法)は「地方自治体でヘイトスピーチ規制に向けた動きが出ているのは良いこと」とした上で、反戦や護憲を掲げる団体への公共施設の使用不許可が相次いでいる問題に触れ「『この団体だからダメ』という外形的理由による一律の禁止は、過度な事前規制につながる恐れがある。非常に慎重な運用が必要だ」という。
関西学院大の金明秀(キムミョンスー)教授(社会学)は「対策法に沿って差別の撤廃に取り組む動きは、法の精神を具体化する試みとして評価できる」としながら「巧妙化するヘイトスピーチ、デモにどこまで対応できるか」と指摘する。
この日、ガイドラインが示された市議会文教委員会でも▽利用申請当日に施設を貸し出す場合、第三者機関に意見を聞くなどの対応が速やかに取れるか▽民間企業などに管理運営を委託する指定管理者制度を導入している公的施設での責任の所在はどうなるのか−といった問題が突き付けられた。市はガイドラインの周知期間中に対応を考える方針だ。
ヘイトスピーチ問題に詳しい前田朗・東京造形大教授(刑事人権論)は「問題点がある場合は、このガイドラインを具体的に議論して改善していけば良いという段階に入った」とみている。