首里城の全焼 「沖縄の心」喪失を悲しむ - 毎日新聞(2019年11月1日)

https://mainichi.jp/articles/20191101/ddm/005/070/042000c

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炎を上げて燃える建物に胸がつぶれる思いがした。沖縄の人々のショックと喪失感は想像にあまりある。
沖縄の歴史と文化を象徴する那覇市首里城で大規模火災が発生し、正殿などの主要施設が全焼した。
高台に建つ壮麗な城は琉球王国時代に築かれ、国王の居所や政治や祭礼の拠点として機能した。日本と中国の影響を受けながら発展した独自の琉球文化の結晶でもあった。
しかし、第二次大戦中には地下に日本軍の司令部壕(ごう)が掘られたため、米軍の攻撃目標となり、全壊した。
今回焼失した建物は、世界文化遺産に登録されている首里城跡に復元されたものだ。被害は、国王が政治や儀式を執り行う正殿や、王府の行政施設で沖縄サミットの晩さん会会場にもなった北殿などの主要施設を含む計7棟に及んだ。収蔵されていた美術品への被害も懸念される。
沖縄にとって文化的価値以上の意味を持つ。沖縄戦では県土が灰じんに帰し、県民の約4人に1人が犠牲になった。文化財も散逸した。元の姿を次第に現していく首里城は、沖縄の人々にとって復興の象徴であり、心のよりどころでもあった。
30年前に始まった復元は今年初めに終わったところだった。戦争による焼失で参考資料も乏しいなか、その労苦は並大抵でなかった。今や年間300万人近くが訪れる観光の中心地になっている。
世界文化遺産では、4月にパリのノートルダム大聖堂で火災が発生した。日本でも危機感が共有されていたはずだ。文化庁も国宝などの防火設備について緊急調査を実施し、対策強化を打ち出したばかりだった。
今回は未明の発生だったとはいえ、消火に時間がかかり燃え広がった。防災体制に問題はなかったか。原因究明とともに検証が必要だ。
近年は文化財などをイベントに活用する機会が増えている。首里城でも文化行事が開催中だった。安全面、防災面も万全を期してほしい。
沖縄を愛した思想家の柳宗悦は、戦争で壊滅的な被害を受けた沖縄に思いをはせ、「真に沖縄を立ち直らしめるものは、その文化の力でなければなりません」とつづっている。
基地問題で痛みを抱える沖縄である。人々が心の支えを取り戻せるよう、国も手を尽くしてほしい。