アビー首相に平和賞 アフリカ安定化の弾みに - 毎日新聞(2019年10月12日)

https://mainichi.jp/articles/20191012/ddm/005/070/097000c
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今年のノーベル平和賞が、20年に及ぶエリトリアとの紛争に終止符を打ったエチオピアのアビー・アハメド首相に授与されることになった。
昨年4月の就任以来、隣国エリトリアとの関係修復に取り組み、対立が続いてきた東アフリカの安定化に寄与した点が評価された。
エチオピアでは長年、民族対立による混乱と圧政が続いてきた。2016年リオデジャネイロ五輪の陸上男子マラソンで銀メダルを取った同国のフェイサ・リレサ選手はゴール時に頭上で腕を交差させて×印を作り、自国政府の弾圧に抗議した。
その後、故郷に戻れなくなったリレサ選手はアビー首相誕生の報を受け、祖国の土を踏む。「世界で最も影響力のある100人」にアビー氏を選んだ米タイム誌上で「彼のおかげで帰国できた」とたたえた。
最大の功績はエリトリアとの和解だ。1998年から00年にかけての武力衝突で推定約10万人が死亡し、戦争状態が続いてきた。アビー氏は就任3カ月後の昨年7月にエリトリアの首都アスマラを電撃訪問し、外交関係を正常化させた。
その成果を足がかりに、「アフリカの角」と呼ばれる東アフリカの安定と平和に道筋を付けた点も特筆される。エリトリアと、対立するソマリアジブチ両国との関係改善で仲介役を果たしたのだ。
内政でも改革を断行してきた。過去の政権による反政府勢力殺害を謝罪し、多数の政治犯を釈放した。さらに、言論と報道の自由を認め、複数政党制の導入を表明するなど、矢継ぎ早に民主化を進めている。
高齢者が多いアフリカ諸国首脳の中で、43歳のアビー氏は最年少だ。民族対立の根は深く、暗殺未遂にも遭った。コンピューターやビジネスを学んだ若き宰相が、家父長的なアフリカ社会を変革することができるか、世界が注目している。
長らく「貧困と紛争の大陸」とみなされてきたアフリカは近年、世界の成長センターへと様変わりしている。人口約1億人のエチオピアも急速な経済成長を続けている。
アフリカの人口は50年に約25億人に膨らみ、世界全体の4人に1人を占める見通しだ。平和賞が、安定と繁栄を目指すアフリカの人々の取り組みを後押しするよう期待したい。