(余録)「和解」を説くパレスチナ人医師がいる… - 毎日新聞(2017年11月24日)

https://mainichi.jp/articles/20171124/ddm/001/070/140000c
http://archive.is/2017.11.24-000939/https://mainichi.jp/articles/20171124/ddm/001/070/140000c

「和解」を説くパレスチナ人医師がいる。自治区ガザ出身のイゼルディン・アブエライシュさん(62)だ。紛争続きのパレスチナイスラエルの平和的な対話と共存を訴える。
かつてイスラエルの病院に産婦人科医として勤めた。民族分け隔てなく患者に接し、医師と交流した。だが2009年、ガザの自宅をイスラエル軍に攻撃され、21歳、15歳、13歳の娘3人を目の前で失った。過激派掃討が目的の誤射とみられた。
にもかかわらず「報復と憎しみは悲しみを増幅させ、争いを長引かせる」と自分に言い聞かせた。思いをつづった自著の題は「それでも、私は憎まない」(亜紀書房)。カナダに移住し基金を設立し、民族間の懸け橋を築こうとしている。
ガザでは07年、パレスチナの主流派ファタハに代わり、イスラム原理主義組織ハマスが実効支配を始めた。以来、イスラエルの封鎖政策は厳しさを増した。内部分裂と対立は混乱に拍車をかけた。今、失業率は40%を超え、物資は足りず、電力供給もままならない。住民は疲弊している。
そのファタハハマスが和解へと動いている。ガザの行政権限を10年ぶりにファタハ主導の自治政府に戻し、将来的に統一政府を目指す。先には頓挫しているイスラエルとの和平交渉再開を見据える。
遠い道のりではあろう。だがアブエライシュさんは「前進」だと評価する。同胞の対立にせよ、民族の敵対にせよ「憎悪は病だ」と言う。いかに憎悪を除去し和解を実らせるべきか。適切な処方箋が必要だ。

それでも、私は憎まない――あるガザの医師が払った平和への代償 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

それでも、私は憎まない――あるガザの医師が払った平和への代償 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)