子どもの自殺 深刻な現実と向き合おう - 信濃毎日新聞(2019年9月24日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190924/KT190923ETI090002000.php
http://archive.today/2019.09.25-003028/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190924/KT190923ETI090002000.php

県内で自殺の心配がある児童生徒らは1235人に上る―。県が初めて行った調査の結果を公表した。事態の深刻さ、対策の必要性を改めて示している。
未成年の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)は2018年、全国で過去最悪の2・8人。長野県も13〜17年の自殺死亡率が3・97人と全国2位の高さだ。手をこまぬいている状況ではない。
県は近く専門家が学校現場などを支援する「危機対応チーム」を発足させる。知見を生かし、苦しむ子どもを救いたい。
今回の調査はチームが扱う事例の数などを把握しようと、学校や自治体に依頼して、過去に自殺未遂や自傷行為の経験がある子、自殺をほのめかす言動がある子、家族を自殺で亡くした子の数を調べた。全国的に例のない調査だ。
該当したのは男子326人、女子909人。自傷経験のある中高生が目立つ。自殺未遂の経験がある91人のうち、25人が救急搬送されていた。
233人について「専門的な支援がほしい」と回答があった。県はニーズが想定より多いとみて、チーム数を1から5に増やし、4地区ごとに設置することにした。深刻な状況を広く知ってもらおうと、あえて調査結果を公表した意図は理解できる。
現状では学校が危険を把握しても、本人や家族が同意しないと校外の専門家に相談できない。そこが壁となり、迅速で十分な対応ができないケースがあるという。
そこで県は教育委員会などを通じて個別の情報を求め、提供があった情報を基に精神科医らで構成するチームで対応する仕組みを作る。チームは教員らに助言し、困難なケースでは当事者の同意を得ながら直接支援も行う。
ただ、県が当事者以外から情報を集めるのは県個人情報保護条例の例外的な措置となる。デリケートな内容を含んでいる。厳格な管理、運用を求めたい。
子どもの自殺の原因は友人や親との不和、進路の悩み、いじめなど、多様で複層的だ。専門的な支援とともに家庭、学校、地域、行政の連携が欠かせない。
まず、子どもが周囲にSOSを発信できる環境を整えたい。親や教員も子どもの悩みや弱さを受け止める柔らかい視点が大事だ。
1235人は「困難を抱える特別な子」ではない。何かのつまずきから思い詰めてしまう危険は、どの子の日常にも潜んでいる。すべての子が生きる力を失わずに済む社会の姿を考えたい。