不安定な新学期 つらさを認めて命守ろう - 信濃毎日新聞(2019年8月23日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190823/KT190822ETI090005000.php
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県内の学校で2学期が始まる。夏休み明けは子どもが不安定になりやすい。全国の多くの地域で新学期を迎える9月1日とその前後は、子どもの自殺が多い、というデータもある。
学校へ行くのがつらい。でも、行かなければ―。こんな葛藤にうまく気づいて、本人から悩みをじっくり聞こう。学校を休むという選択だって躊躇(ちゅうちょ)しなくていい。
生活の場が家庭と学校にほぼ限られる子どもは、大人より狭い世界に生きている。そこでの人間関係が破綻すれば、心が受ける衝撃はとても大きい。
学校では、仲間から外されないよう常に周囲の反応が気になる。嫌われぬよう、目立たぬよう、自分を押し殺している子は少なくない。教室には「スクールカースト」と呼ばれる序列も生まれる。誰かの序列を下げて自分を守ろうとする力学が露骨に働く。
こんな緊張を強いられる場所にはもう行きたくない。でも、「弱い自分」は認めがたく、周囲に悟られたくもない―。葛藤と孤独は相当な苦しみだろう。
「もう無理だ」という訴えを、大人は怠慢や意志薄弱と決め付けないことが大事だ。強引に登校させても本人は疲れ切り、傷は深くなる。今の学校に苦しさを感じることは弱さでも恥でもない。悩むことを含め丸ごと肯定されることで、子どもは救われる。
全国的に子どもの自殺は減っていない。自ら命を絶った10代は昨年599人(県内12人)。原因は学校の友人関係だけでなく、複層的だ。警察庁の統計によると小中学生は家族の叱責(しっせき)、親子の不和、学業不振も目立つ。高校生ではうつ病なども増える。体調不良や不眠、食欲不振といった変化にも、日ごろから気を配りたい。
長野県は未成年者の自殺死亡率(10万人当たりの自殺者数)が全国で2番目に高い。理由は明確でないが、県は「子どもの自殺ゼロを目指す戦略」を打ち出し、総合的な対策をスタートさせた。
10月以降、医師らによる危機対応チームを発足させる。自殺未遂や自傷行為、自殺をほのめかすようなケースについて市町村などから情報提供を受け、個別に助言できるようになる。現場だけで問題を抱えこまない先駆的な試みだ。十分に機能させたい。
一方、学校でも家庭でもない「第3の居場所」の存在も救いになる。子ども食堂のような支えを地域の大人たちが広げていくことは、幼い命を守るための大きな一助となる。