(斜面)「表現の自由はどのような文脈からも独立して擁護される必要のある権利」 - 信濃毎日新聞(2019年9月8日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190908/KT190907ETI090002000.php
http://archive.today/2019.09.08-002701/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190908/KT190907ETI090002000.php

青と緑の太い茎の上に小さくて赤い花がいくつも咲いているように見える。抽象的な絵画のタイトルは「原子爆弾」。スイスのアーティスト、ミリアム・カーンさんの作品だ。幼いころに見た原爆実験の映像を題材にした

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同じユダヤ系の科学者は、原爆開発と反対の立場に分かれていた。美しい絵画に隠された負の題材の二面性。表現したのは原爆を巡る葛藤だ。名古屋市で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」で鑑賞した。美しく描くことで見た人に口論を仕掛けられることもあるという

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ウェブメディア「WIRED」の2012年のインタビューで、カーンさんは激しい反応を「作品をきっかけに何かを考え始めたということ」とし、「どんな鑑賞にも柔軟なのがアート」と話した。自由に描き見た人が自由に考える。これが本質だろう

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芸術祭では展示を一時中止する作者が相次いでいる。政治家や一般から苦情が寄せられた「表現の不自由展・その後」を主催者が中止したことへの抗議だ。閉鎖された展示室の前に声明文があった。「表現の自由はどのような文脈からも独立して擁護される必要のある権利」だと

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不自由展の中止から1カ月。愛知県は委員会を立ち上げ今回の経緯を検証している。やるべきことは多い。抗議への対策や展示の趣旨説明は十分だったか。表現の場を奪う意味を主催者と抗議した人たちはどの程度考えたのか。検証が不十分だと展示室の扉は二度と開かない。