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離婚後に生まれた子に関する「嫡出推定」。親が子を戒める「懲戒権」。古い民法規定が無戸籍の子を生む原因になり、児童虐待の口実にもなる。時代にそぐわぬ定めは早く見直すべきだ。
法相が法制審議会に諮問したのは、嫡出推定と懲戒権の規定だ。嫡出推定は民法七七二条。法律上の父親について、女性が婚姻中に妊娠した場合は夫、離婚後三百日以内に出産した場合は元夫と推定する定めだ。
この規定のため、ドメスティックバイオレンス(DV)から逃れている女性や、離婚直後に元夫とは異なる男性の子を妊娠した女性らが、子が元夫の戸籍に入らないよう出生届を出さないケースが後を絶たない。今も約八百人が無戸籍の状態らしい。
解消するには、家庭裁判所で元夫との間に父子関係がないことを確認したり、血縁上の父に父子関係を認めてもらった上で、戸籍を取得する必要がある。手間がかかり、ためらう人もいる。
無戸籍だと住民票を取得できないなど生活に大きな不利益がある。今や父子関係は簡便なDNA鑑定で証明できる。もはや明治民法の名残は時代にそぐわない。ただし、何らかの事情で鑑定などが不能の場合もある。父親が不確定の事態を回避し、子の法的な地位を安定する必要はある。それを留意し、議論を深めてほしい。
懲戒権もそうだ。民法八二二条は、子の教育や監護に必要な範囲での懲戒権を認めているが、親の「しつけ」名目で虐待するケースもある。二〇一一年の民法改正時には懲戒権削除の意見があったが、「相当なしつけができなくなる」などとして見送られた。「子の利益のため」という前提条件が加えられたが、懲戒権を口実にした虐待が続くという指摘がある。
懲戒権について施行後二年をめどにあり方を検討するとした児童虐待防止法と児童福祉法の改正案が今国会で可決された。この規定は本当に必要か。削除を含め、早急な対応が求められる。
民法には再考すべき点が潜在する。例えば生まれた子の父親であることを法的に否定する「嫡出否認」だ。この訴えを起こす権利は夫のみに認められている。男女同権の憲法に反すると考えても、裁判所では「合憲」と判断されている。
親子関係の法は、その時代に即した合理性がいる。何より子どもの権利を守る観点から、民法の見直しは急務だ。