親の体罰禁止法 懲戒権の削除が急務だ - 琉球新報(2019年5月26日)

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「しつけ」と称した親の体罰を禁止する児童虐待防止法児童福祉法の改正案が成立する見通しとなった。子どもに暴力を振るってはならないという意識を国民に認識させる意味で一歩前進だと言える。法律で明文化されたことで児童相談所などが介入しやすくなる。
ただし、親権者に必要な範囲で子どもを戒めることを認めている民法の懲戒権については、改正法施行後2年をめどに検討するとした。改正法で体罰は禁止としながら、民法上は懲戒権を認めるというのは矛盾している。体罰を明確に禁じるために、早急に民法の懲戒権を削除すべきだ。
衆院厚生労働委員会で可決された改正案は、昨年3月に東京都目黒区で船戸結愛ちゃん=当時(5)、今年1月に千葉県野田市で栗原心愛さん=当時(10)=が親からの虐待で死亡する悲惨な事件が相次いだことを踏まえた。罰則はないものの、家庭内の体罰禁止に踏み込んだ。
虐待された子どもを保護する児童相談所では、一時保護などの「介入」に対応する職員と、保護者の相談など「支援」を担当する職員を分け、介入の機能を強化する。児童相談所で子どもたちの対応に当たる児童福祉司についても体制を強化する。
心愛さんが学校に虐待を訴えたことが教育委員会から父親に漏れたことを踏まえ、学校や教育委員会児童福祉施設の職員に守秘義務を課すことも盛り込まれた。ドメスティックバイオレンス(DV)に対応する機関との連携も強化する。
ただ、体罰の定義は今後、ガイドラインで定めるとするなどあいまいな部分は残されている。野党側は対案として、虐待した親を対象とする再発防止プログラムの実施を求めていたが、改正案では都道府県や児童相談所が虐待をした保護者への指導に努めることとされた。
改正案が実効性を保つには、政府が虐待防止の啓発活動と児童保護体制を強化するだけでなく、体罰によらない子育ての在り方を広めていく必要がある。
「愛のムチ」という言葉が使われるように、日本は体罰に寛容とされる。児童虐待の加害者は実の親が多い。虐待を根絶するためには、たたかないしつけの方法を伝えたり、子育てに悩んでいる人の相談を受けたりするなど親に対する支援拡充が必要だ。
全国の児童相談所が対応した児童虐待の件数は年々増え続け、2017年度は13万3778件に上る。児童相談所の体制強化は喫緊の課題だ。自治体任せにせず、国が本格的な財政支援に乗り出さなければならない。
「おねがい、ゆるして」と大学ノートにつづった結愛ちゃん、「先生、どうにかできませんか」と訴えた心愛さん。悲劇を繰り返さないことは私たち大人の責任だ。しつけに懲戒権は必要ない。