言論・表現の自由 政府は批判を受け止めよ - 信濃毎日新聞(2019年6月7日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190607/KT190606ETI090007000.php
http://archive.today/2019.06.07-005955/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190607/KT190606ETI090007000.php

言論と表現の自由に関する国連の特別報告者デービッド・ケイ氏がまとめた新たな報告書は、日本でメディアの独立性に現在も懸念が残るとした。
2017年の報告書に盛った勧告を日本政府がほとんど履行していないと批判している。政府は重く受け止めるべきだ。
特別報告者は国連人権理事会の任命を受け、事実調査・監視を行う専門家だ。17年の報告書は特定秘密保護法などで報道が萎縮している可能性を指摘し、「政府による介入の根拠となる放送法4条の廃止」など11項目を勧告した。
今回、9項目を「未履行」と評価している。他の2項目は「一部履行」と「評価できるだけの十分な情報がない」である。
政府は「不正確かつ根拠不明のものが多く含まれ、受け入れられない」と批判している。聞く耳を持たない姿勢が鮮明だ。
前回の報告書をまとめる際、ケイ氏は放送関係の法令を所管する総務相に面会を申し入れた。しかし、総務省が「国会会期中」を理由に拒絶した経緯がある。敬意を欠く不誠実な対応だった。
11項目には、メディアの立場から賛同しにくいものもある。例えば、放送法4条だ。放送の在り方について▽公安、善良な風俗を害しない▽政治的に公平―などを挙げる。政治の介入に対する防波堤にもなり得る規定である。
それでも、基本的な問題意識は適切で同意できる。
新たな報告書は、政府に批判的なジャーナリストらへの当局者による非難は「新聞や雑誌の編集上の圧力」と言えるとした。沖縄の米軍基地建設などへの抗議活動に当局の圧力が続いているとし、集会と表現の自由を尊重するよう政府に要請している。
現政権下、報道への政治介入が続いている。自民党は昨年の総裁選で「公平・公正な報道」を求める文書を送った。首相官邸東京新聞記者の質問を「事実誤認」とし、質問制限と取れる要請文を記者クラブに出した問題もある。
沖縄では抗議活動に絡み威力業務妨害などの罪に問われた山城博治沖縄平和運動センター議長の有罪が確定した。報告書は、表現の自由の権利行使を萎縮させる恐れがあると懸念を示している。
いずれも憲法が保障する表現の自由に対する政権の無理解の表れだ。元々、政府は「不正確で不十分な内容」と報告書に反論していた。勧告に法的拘束力はない。だからといって無視し続ければ、国際社会の信頼を損ないかねない。