https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190522/KP190521ETI090007000.php
http://archive.today/2019.05.23-000545/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190522/KP190521ETI090007000.php
警察や検察が生活保護行政に関する情報を令状の不要な「照会」で大量、頻繁に求め、一部自治体が応じていた。憲法が保障する最低限度の生活が危ぶまれる人々の生活状況から家族関係まで、高度なプライバシー情報が含まれているとみられる。
行政が是非を適正に吟味していたとは言い難い。安易な情報提供は福祉行政への不信を募らせる。運用をただちに改めるべきだ。
憲法は裁判所が出す令状によって家宅捜索や所持品の押収を認めている。人権の制限を伴う強制捜査の必要は、裁判所が判断する。一方で刑事訴訟法は、捜査当局が企業や官公庁に捜査上必要な事項の報告を求める「捜査関係事項照会」の手続きを定めている。令状が不要な任意捜査だ。
捜査当局がこの手続きを駆使し、広範な情報を入手している実態が明らかになってきた。ポイントカードの運営会社は会員情報を提出していた。ゲーム運営会社は利用者の位置情報を提供した可能性がある。情報を組み合わせれば、生活が丸裸にされかねない。批判を受け、令状なしの情報提供をやめる企業も出てきた。
今度は生活保護受給者がターゲットになっていたことが分かった。捜査上の必要がどこにあるのか。入手した情報をどう利用しているのか。すべて闇の中だ。一度に50人分の照会が届き、公安部門からの照会もあったという。
自治体もプライバシーへの配慮が足りない。共同通信のアンケートでは県外14市区が「原則的に照会された全項目を提供する」とした。犯罪の具体的な嫌疑を問い合わせないとの自治体も計21ある。
所管の厚生労働省は自治体職員向けの手引で「照会の趣旨、必要性を十分検討し、公益上の利益と本人の不利益を比べる。開示の場合も必要な範囲内を回答する」としている。それなのに現場は徹底を欠いていた。警察OBが照会に対応し、福祉事務所内で議論していない事例もあった。
生活保護課前などに防犯カメラを設置した松本市は「申請者が萎縮しかねない」といった批判を受けた。それだけデリケートな対応が求められる現場だ。ましてや生活に困って役所に渡したプライバシー情報を、本人の知らぬ間に捜査機関へ安易に流していたのでは、重大な人権侵害といえる。
「安全」を理由に捜査機関が個人情報を無制限に手にし、実態も分からない社会は果たして「安心」か。捜査機関と自治体に、人権への深い配慮を求める。