パンプスの強制 健康を害する性差別だ - 信濃毎日新聞(2019年6月7日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190607/KP190606ETI090009000.php
http://archive.today/2019.06.07-011147/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190607/KP190606ETI090009000.php

根底に健康問題と性差別があると認識するべきだ。
長時間履くと足腰を痛めることもあるパンプスやハイヒールの着用の強制である。
企業などに「女性のマナー」として強制されているとして、禁止を求めるネット上の署名が約1万9千人分集まった。呼び掛けた女性が要望書を添え、厚生労働省に提出している。
パンプスやハイヒールはスタイルが優先だ。専門家からは長時間履き続けると靴擦れを起こし、外反母趾(ぼし)や腰痛の原因になると指摘されている。
営業などで長時間歩いたり、素早く動いたりすることにも向かない。それなのに、女性は職場によって履くことを強制される。
悩みは深刻である。厚労省は要望を受け止め、対策に乗り出す必要がある。
男性もネクタイや革靴がマナーとされる。それでもネクタイには健康被害はほとんどなく、自分の足に合った形の革靴が選べる。
女性はなぜ靴の形を選べず、職場によってはパンプスやハイヒールを指定されるのか。男性と同様、動きやすい底が平の革靴ではだめなのか―。職場でパンプスを強制されて足を痛めた女性が投げ掛けた疑問が共感を呼んだ。
ネット上では「#KuToo」と名付けられた運動が広がった。性暴力を告発する動き「#MeToo」と「靴・苦痛」を掛け合わせたネーミングである。
厚労省に提出した要望書は「企業が着用を女性のみに命じることは性差別、もしくはジェンダーハラスメントに当たる」と訴え、強制を禁止する法規定を求めた。
これに対し、根本匠厚労相は5日の衆院厚労委員会で、事実上、強制を容認したとも取れる発言をしている。「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」と述べている。問題の本質を理解していないのではないか。
女性だけに足を痛める可能性がある靴の着用を求めるのが社会通念だとしたら、社会が性差別を容認していることになる。厚労省は率先して意識の改善を求めなければならない。
職場から女性差別をなくすことは喫緊の課題だ。厚労省はまず、訴えに真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。その上で、改善方法を検討する必要がある。
法規制は理解が進まない場合の最後の手段だ。「女性のマナー」とされていることが適切なのか。まずは社会全体が考えることから始めなくてはならない。