強制不妊手術の救済法案 被害者に響く内容なのか - 毎日新聞(2019年3月15日)

https://mainichi.jp/articles/20190315/ddm/005/070/026000c
http://archive.today/2019.03.15-000536/https://mainichi.jp/articles/20190315/ddm/005/070/026000c

優生保護法によって障害者らに強制不妊手術が行われた問題で、与野党の国会議員が一時金320万円を支払うことなどを盛り込んだ救済法案をまとめた。
現在20人の被害者が起こした国家賠償請求訴訟が各地の地裁で継続しており、判決前に救済法案をまとめるのは異例だ。被害の重大性や当事者の高齢化に配慮して救済を急いだ点は評価したい。
ただ、一時金の額や謝罪の言葉などをめぐり被害者側の要求との隔たりは大きい。与野党議員は4月に法案を今国会に提出する予定だが、もっと被害者が納得できる案へと修正すべきだ。
救済法案で一時金を320万円としたのは、スウェーデンが1990年代に強制不妊手術の救済で支給した額を参考にしたためという。
物価も時代も違う外国の例に基づいた積算根拠にどれだけ合理性があるだろうか。各地の訴訟で原告が求めている賠償金は1000万円以上だ。一般の交通事故で生殖能力を失う後遺症がある場合の慰謝料の基準も1000万円という。
国の隔離政策で不当な差別や偏見を受けたハンセン病の元患者らに支払われた補償金の400万~1400万円と比べても低すぎる。
法案には「我々は、それぞれの立場において、真摯(しんし)に反省し、心から深くおわびする」と明記する。だが、被害者側は「我々」「それぞれの立場」という表現ではなく、「国」がおわびの主体であることを明記すべきだと主張する。
優生保護法は48年に議員立法で制定され、国会では不妊手術を徹底するよう議員から繰り返し質問や要請が行われた。厚生省(当時)は自治体に手術を徹底するよう何度も通知を出した。
国会や行政の主導で強制不妊手術を推し進めた経緯を考えると、国の責任があいまいな「おわび」には誠実さが感じられない。
不妊手術が行われてから長い年月が過ぎている。手術記録や同意の有無にかかわらず、幅広く一時金を支給することにしたのは当然だろう。
名前が判明している被害者は一部に過ぎない。できるだけ多くの被害者を救済するにはどうすればいいかも考えないといけない。