ハンセン病の家族補償 いわれなき差別と決別を - 毎日新聞(2019年10月24日)

https://mainichi.jp/articles/20191024/ddm/005/070/026000c
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ハンセン病の元患者家族に対する補償法案の骨子がまとまった。国の政策が差別を招いた責任を認め、家族関係に応じて補償する。
併せて、差別解消や名誉回復を目的とするハンセン病問題基本法を改正し、家族を対象に加えるという。
約90年にわたる国の誤った隔離政策によって、患者だけでなく、その家族も苛烈な偏見や差別を受けてきた。今回の対応は、一定の救済を図るものとして評価できる。
熊本地裁は6月、家族への差別について国に賠償を命じた。政府は控訴せず、安倍晋三首相が謝罪した。厚生労働省と家族側の協議を踏まえて、超党派の議員懇談会が法案づくりを進めてきた。
裁判の原告かどうかを問わず、元患者の親子や配偶者に1人180万円、兄弟姉妹や他の同居していた家族に130万円を支払うとされる。判決より額を上積みし、対象も広がり、家族側に配慮した形となった。
かつてはらい病と呼ばれ、隔離政策とそれに基づく「無らい県運動」は、社会に根深い差別の構造を生み出した。医学的根拠はないと明らかになっても隔離政策は継続された。
患者の家族は患者予備軍として就学や結婚、就職を阻まれた。患者の存在を隠そうとすることで、家族関係まで破壊された。
裁判の原告団には大半が匿名で参加した。提訴後、元患者家族と知られて離婚した原告もいるという。差別が今も残る現状を物語る。
補償にとどまらず、断絶した元患者と家族をつなぐ施策をはじめ、幅広い支援が求められる。
国は差別解消に向け、シンポジウムを開き、中学生向け冊子を配布しているが、不十分だ。子どもたちに正しい知識と苦難の歴史を伝える場を設けることが欠かせない。
全国に13カ所ある国立療養所を拠点として、入所者との交流や情報発信に取り組み、差別の実態を広く認識してもらうことも重要だろう。
社会にはさまざまな偏見がある。旧優生保護法に基づく強制不妊手術は、優生思想を背景とした国の政策だった。エイズウイルス感染者の就職差別は現在でも起きている。
いわれなき差別とは決別しなければならない。社会全体で克服していくことが必要だ。