賠償認めず冷たい判決 - 沖縄タイムス(2019年5月29日)

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違憲と判断したものの、損害賠償など被害者の救済にはつながらない判決だ。
優生保護法に基づき、知的障がいを理由に不妊手術を強いられた宮城県の60代と70代の女性2人が国に損害賠償を求めた訴訟の判決が仙台地裁であった。
判決は「旧法は個人の尊厳を踏みにじるもので、誠に悲惨だ」として、幸福追求権を定めた憲法13条に違反するとの判断を示した。
一方で、被害者救済に向けた立法措置をしてこなかった国側の責任を認めず、原告の請求を棄却した。20年間で損害賠償請求権が消滅する除斥期間の適用についても「憲法に違反しない」とした。
不妊訴訟を巡り全国7地裁で争われている同種訴訟では初めての判決である。
原告にはとても納得できる内容ではないだろう。
除斥期間について判決は「本人が手術を裏付ける客観的証拠を入手することも困難だった。手術から20年が経過する前に賠償請求権を行使するのは現実的に困難だった」と認めながら、しゃくし定規に適用している。論理が一貫せずとても納得がいかない。
ふに落ちないのは「国内では子を産み育てるかどうかを意思決定する権利(リプロダクティブ権)に関する法的議論の蓄積が少なく、国会で立法措置が必要不可欠かどうか明白ではなかった」と立法不作為の責任を否定したことだ。国寄りで、国の怠慢を認めるようなものである。
60代女性は15歳で知的障がいを理由に、70代女性も16歳で理由を告げられないまま強制不妊手術を受けた。
非人道的な差別を受けた被害者らにとっては冷たい判決というほかない。

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旧法は「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に、ナチス・ドイツの「断種法」にならい1948年に施行された。96年に優生手術の規定が削除され、母体保護法に改められた。国はその後、国連人権委員会日弁連などから被害者救済を求められていたが、謝罪や補償をせず被害者は放置されたままだった。
昨年1月、仙台地裁への国賠訴訟の提訴を皮切りに全国で起きた訴訟に押される形で超党派議員連盟が今年4月、被害者に一時金320万円を一律支給する救済法案を提出し成立、即日施行された。
安倍晋三首相が反省とおわびの談話を発表したが、法の前文をなぞっただけで国の責任はあいまいのままだ。
損害賠償請求額との開きが大きく、救済法の見直しや直接謝罪を求める声が被害者から出てくるのは当然である。

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判決後、70代の原告女性は「人の人生を奪っておいてこれか」「生きている意味がなくなった」と肩を落とした。弁護団は控訴する方針だ。
長年、救済されずにきた被害者は高齢化が進み、残された時間は少ない。
国会と国は人権を踏みにじる立法を行い、施策を進めた責任を認めなければならない。人生を狂わされた被害者の訴えに真(しん)摯(し)に向き合い、尊厳と名誉回復のため、謝罪と救済の在り方について考え直す必要がある。