大量雇い止め 日系人は置き去りか - 東京新聞(2018年12月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018122102000169.html
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シャープ亀山工場の日系外国人の大量雇い止めは、十年前のリーマン・ショックで起きた事態と重なる。政府は新たな外国人労働者の受け入れを急ぐあまり、日系人を置き去りにしてはならない。
シャープ亀山工場では、スマートフォン部品の生産が今年に入って親会社の鴻海(ホンハイ)精密工業の中国拠点へ移った。このため三次下請け会社を通じ働いていた日系人が次々と仕事を失った。二千九百人にも及んだという。
短期契約を繰り返す非正規雇用の雇い止めは、二〇〇八年のリーマン・ショックによる不況で社会問題になった。日本人だけでなく、多くの日系人が失業して住まいを追われ、帰国を余儀なくされる人たちも続出した。
そもそも日系人は定住者である。一九九〇年に二世や三世の定住資格が認められて以降、南米から多くの人が全国のものづくりの街に仕事を求めてやってきた。職業に制限はなく、来年四月から人手不足のため新たに受け入れる外国人とは位置付けが異なる。
南米からの定住者や永住者は計二十五万人ほど。正規雇用の職を得る人も増えているが、言葉の壁や子の教育など住み続ける上での課題はまだ多い。政府はリーマン後の〇九年、定住支援の取りまとめ組織を設けて共生に取り組む姿勢を示したが、具体策の多くを自治体任せにしてきた。今回の雇い止めでは、三重県が三重労働局から情報を受けながら放置する連携不足も明らかになり、問題発覚後に県は対策チームを立ち上げたばかり。十年たっても日系人が弱い立場にあることを示している。
先の国会で成立した改正入管難民法は、人手が特に足りない産業分野で新たな在留資格「特定技能」を設け、外国人労働者を増やす目的がある。政府は、技能実習生の移行を含めアジア各地からの受け入れを想定し、正規雇用や日本人と同等の報酬など環境整備を急いでいる。日系人を含む外国人の受け入れ・共生を進める対応策は近くまとまるが、特定技能の労働者対策に偏らないか懸念が残る。
三十年近く前に受け入れを拡大した日系人は、今も景気の波に左右されている。特定技能の受け入れとは分けて支援を考えるべきだ。既存の策で足りない面を検証し、より定住しやすい仕組みづくりを進めるべきだろう。この反省がなければ、新たな外国人労働者への対応も場当たり的となり、労働力の「調整弁」として依存する構図は変わらない。