外国人共生、今も手探り 入管法改正案 慎重な議論望む声 - 東京新聞(2018年12月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018120502000256.html
https://megalodon.jp/2018-1206-0907-53/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018120502000256.html

外国人労働者の受け入れを拡大するため、与党は週内にも出入国管理法改正案成立を目指している。だが、外国人が多く住み、長年にわたり共生を手探りしてきた自治体や団地の住人からは慎重な議論を求める声が出ている。

◆群馬・大泉町 30年で人口2割 
「買える、買えない」「納豆が食べられる、食べられない」
群馬県大泉町の町立図書館で毎週土曜に開かれている町教育委員会主催の「多言語サロン」。住民有志らが外国人向けに日本語を教える活動で、子どもから大人まで学ぶ。

 身ぶり手ぶりを交えて指導する講師は日系ブラジル人三世の三沢巌さん(52)。日本語ができないまま二十五歳で来日し、苦労した。「生活の質を上げるには、日本語を身に付けることがとても大事」と強調。外国人受け入れ拡大については、国主導で対応を充実させないと「なじめない人が増える」と心配する。
町は自動車や電器関連などの工場が集積。日系外国人の就労を解禁した一九九〇年の入管法改正で日系ブラジル人らが増え、結婚や出産などを経て定住化が進んだ。今年九月末で人口約四万一千七百人のうち、外国人は18%の七千五百人。国籍は多様化し、ブラジルのほかペルー、ネパール、フィリピンなど四十四カ国にわたる。
町によると現在、ごみの分別などの苦情はあっても目立った摩擦はない。「三十年間かけ手探りで積み重ねてきた結果」(町多文化協働課)という。
外国人の生活支援は自治体にほぼ「丸投げ」されてきた。町は全国に先駆け町内の小学校に「日本語学級」を設置。外国人の犯罪が報じられると、町が各学校に差別防止に配慮するよう連絡している。役所での手続きのため通訳を採用し、ポルトガル語の広報紙発行、職員が外国人学校で日本の制度やマナーを説明する出前講座も開く。町の本年度当初予算約百二十七億円のうち、関連費用に約一億円を支出している。
それでも課題は多い。二十代の日系ブラジル人三世の女性は「日本語を学ぶには、吸収力のある子どもはともかく、仕事や育児で疲れている大人には大変」と明かす。中学の日本語指導助手でもある三沢さんは、日本語力が「派遣切り」などの際に雇用継続の鍵にもなるとしつつ、「吸収力や学力の差は(個人差が)大きく指導は難しい」と指摘する。
村山俊明町長は十一月下旬、外国人が多く住む他の自治体と共に、外国人の施策を推進する組織の創設を求める意見書を法務省に提出。「大泉町もまだ共生がうまくいっているとはいえない。国は労働者を求めるが、われわれは生活者として考えないといけない」と訴えた。
教育の拡充に加え、外国人の高齢化対策などの課題もあり、村山町長は「受け皿が未整備のまま入管法を変えると、混乱が起きる」と指摘している。 (池田知之)

◆埼玉・川口市 半数入居の団地 
五千人近い住民のうち、半数以上を中国人を中心とする外国人が占める埼玉県川口市芝園団地掲示板には日本語と中国語の案内が貼られ、敷地内の商店街には中華料理店や中国の食材が買える店が並ぶ。
都心へのアクセスの良さなどで九〇年代後半から中国人が増え始めたが、かつては日本人と中国人のトラブルが相次いだ。ベランダからごみを投げ捨てる住民が現れ、ベンチに「中国人帰れ」と落書きされた。団地自治会は「階段や玄関前に私物やごみを放置しない」など、中国語で生活マナーを紹介した冊子を配布。団地事務所に通訳を配置し、祭りなどの交流の場も増やし、目立ったトラブルはなくなってきた。
今年二月には「多文化共生の先進的事例」として、国際交流基金自治会を表彰した。しかし自治会事務局長の岡崎広樹さん(37)は「今は『共存』しているだけで、互いに協力し合える『共生』となると課題が多い。日本人と中国人の交流の場をつくっても、ごく一部の人しか参加しないのが実情だ」と話す。 (井上峻輔)