(筆洗)法王フランシスコが来年の終わりごろに訪日し、被爆地の広島と長崎を訪れる - 東京新聞(2018年12月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018122102000128.html
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第二次大戦末期のヤルタ会談で、ポーランド共産化に話が及んだ。ソ連スターリンはこう話したと伝えられる。「法王がいったい何個師団を持っていると言うんだ」
ローマ法王バチカンに自前の軍はない。知らないはずはなかっただろうが、独裁者は武器を持たぬ国と法王の力を正しく見積もっていなかったようだ。ポーランド生まれの法王ヨハネ・パウロ二世は冷戦期に、外交と言葉の力で、母国の民主化と冷戦終結の立役者となる。
いまなお師団こそ持たないが、世界の目をひきつける力は持ち続けているであろう。法王フランシスコが来年の終わりごろに訪日し、被爆地の広島と長崎を訪れるという。実現すればヨハネ・パウロ二世以来、二度目の法王訪日だ。
就任後から、核兵器廃絶をくり返し訴えてきたフランシスコである。被爆者と会い、被爆地で撮影された「焼き場に立つ少年」と呼ばれる写真をカードにして配ったことがある。
日本に布教したイエズス会から出た初の法王でもある。若いころから、日本行きを熱望していたそうだ。今年、世界文化遺産への登録で注目を集めた潜伏キリシタンの地を訪れる。歴史の縁と巡り合わせを感じさせよう。
米ロ間で、朝鮮半島で、混迷し停滞する核軍縮である。軍を持たないがゆえに多くを語れる。そんな人の何個師団にも匹敵する力のある言葉が求められる時だろう。