ブラジル大統領 ひ弱な民主制度を守れ - 東京新聞(2018年11月2日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018110202000165.html
https://megalodon.jp/2018-1102-0920-55/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018110202000165.html

政治腐敗と経済不振の解消へブラジルが危ういかけに出た。新大統領に選ばれた元軍人のボルソナロ氏(63)は、かつての軍政を賛美する扇動政治家だ。いつか来た道に戻らぬようくぎを刺したい。
ボルソナロ氏は「ブラジルのトランプ」の異名をとる。女性や社会的少数者への差別発言で社会の分断を深め、大統領選では発信手段に会員制交流サイト(SNS)を駆使したスタイルからだ。
下院議員としての政治歴は長いが、一貫してアウトサイダーだったことが、十月二十八日に決選投票が行われた大統領選では幸いした。
政治腐敗や治安悪化、景気低迷に有効な手が打てない既成政治に対する有権者の不満の受け皿となった。トランプ現象と同じである。
ブラジルでは二〇一四年に国営石油会社を舞台にした史上空前の汚職事件が発覚し、政治家や政府高官ら数百人が摘発された。低所得者層に今も人気が根強いルラ元大統領も収賄罪で収監され、今回の大統領選に出馬できなかった。
治安の悪化も深刻で、殺人事件の被害者は年間六万三千人を超える。一日に百七十人以上が犠牲になっていることになる。
新興五カ国(BRICS)メンバーとして脚光を浴びた経済も不振だ。資源安に金融政策の不手際が重なり、リオデジャネイロ五輪のあった一六年は、前年に続いてマイナス成長に陥った。一七年は1%のプラス成長に転じたものの低迷が続いている。
既成政治に裏切られたと感じる民心をうまくつかんだボルソナロ氏は、ポピュリストと呼ばれる。世界的に吹き荒れるポピュリズムは、「大衆迎
合」という否定的な意味合いを持つが、実は民意をすくい取れなくなった民主制の機能不全に発する警告でもある。
ポピュリズムが強権政治につながらぬように、為政者は市民の声なき声に耳を傾ける必要がある。
政治不信をもたらす汚職のまん延は中南米共通の悩みであり、これを背景に民主主義への信頼が揺らいでいる。米国の大学などが一六〜一七年に二十一カ国で実施した世論調査では、民主制を支持する人は57・8%。一四年の前回調査から8・6ポイントも減った。
ブラジルでは軍事独裁政権が約二十年続き、民政に移管したのは一九八五年のことだ。民主制度はまだひ弱い。ボルソナロ氏は憲法と民主主義を守るとした誓いを忘れてはならない。