ルケルショック 寛容の否定ではない - 東京新聞(2018年10月31日)

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ドイツのメルケル首相が州議会選での与党大敗で党首辞任を表明した。大敗は寛容政策への不満だけが原因ではなさそうだ。国際社会の安定のためにも、しっかりと後任にバトンを渡してほしい。
メルケル氏は十二月の党首選に出馬せず、二〇二一年秋までの任期限りで政界も引退する。
四期十三年間にわたってドイツを率い、欧州連合(EU)や主要七カ国(G7)でも主導的役割を果たしてきた。波紋は大きい。
ただ、首相は辞めない。残りの任期はまだ三年ある。党勢を盛り返し、自らの路線を継ぐ後継者に禅譲したい、とのしたたかな戦略もうかがわれる。
十月二十八日の西部ヘッセン州議会選で、メルケル氏が率いる保守、キリスト教民主同盟(CDU)は前回に比べ得票率を10ポイント以上減らした。その二週間前の南部バイエルン州議会選では、CDUの姉妹政党、キリスト教社会同盟(CSU)が得票率を10ポイント以上下げ、単独過半数を失っていた。
メルケル氏の保守与党と中央政府で大連立政権を組む中道左派政党、社会民主党も両州で大敗し、反移民難民を主張する極右的政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が躍進した。
昨年九月の総選挙と同様の傾向だ。大連立で特色を失った既成政党への飽きと、メルケル氏の寛容な難民受け入れに対する不満が背景にあったのは間違いない。
一方で、州議会選では環境保護政党「90年連合・緑の党」が大きく得票を伸ばした。同党は、家族呼び寄せを認めるなど難民への人道的配慮を強調する。今回の選挙で、メルケル氏の寛容政策が否定されたとばかりは言い切れない。
バイエルン州は難民入国の玄関口的存在。州議会選を前にCSUは、AfDに票を食われまいと難民への厳しい姿勢を強調。メルケル氏も政権維持を優先し、受け入れ制限などで寛容色を薄めた。
旧東独地域での反移民難民デモでは、取り締まる立場なのに極右寄りだった憲法擁護庁長官を解任、内務次官に昇格させる混乱した人事案が批判を浴びた。
政権内で相次ぐ不協和音にあきれる声も高まっていた。ポピュリズムへと走ったブレが、州議会選大敗の最大要因だった。
トランプ米大統領が差別的な姿勢で国際秩序を壊す中、人権、自由、協調などの価値観を守ろうとするドイツへの期待は大きい。国際的役割も自覚し、「ポスト・メルケル」を決めてほしい。