社説)憲法70年 一票の平等なお道遠く - 朝日新聞(2018年4月16日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13452802.html
http://archive.today/2018.04.16-000711/https://www.asahi.com/articles/DA3S13452802.html

昨秋の衆院選をめぐる定数訴訟の高裁判決が出そろった。
公職選挙法を改正し、一票の格差を最大1・98倍にして行われた選挙だった。さらに今後、人口に応じて都道府県に議席を配分する「アダムズ方式」を導入することも決まっている。
全国で16の裁判が起こされたが、うち15の判決は、こうした取り組みを評価して、選挙は合憲と結論づけた。
たしかに94年に小選挙区制が採用されて以降、最大格差が2倍を切ったのは初めてだ。だがその中身と経緯をみれば、合憲とするには疑問がある。
最高裁は09、12、14年の衆院選をいずれも、法の下の平等に反する状態だったと判断し、都道府県にあらかじめ定数1を割り振る「1人別枠方式」が格差を広げる原因だと指摘した。
ところが国会は是正策をまとめられず、有識者に検討を委ねた。16年1月に答申が出たが、現職議員に与える影響が大きいのを嫌った自民党の主導で、全面実施は先送りとなった。1人別枠は撤廃されないまま、首相の強引な衆院解散によって前回選挙は行われた。
一連の高裁判決はこうした党利党略にお墨付きを与えるもので、甘いと言わざるを得ない。一人一票が憲法上の当然の要請であるにもかかわらず、「格差が2倍以内に収まってさえいれば良い」という、誤った認識を広げる危うさもはらむ。
ただひとつ「違憲状態」とした名古屋高裁は、「1人別枠の解消がいまだ実現していない」「格差は2倍に極めて近く、見過ごせない」と批判した。この方が一般の感覚に沿う。
今回の多くの高裁判決の背景には、小手先の改革に終始する国会を、結果として追認してきた最高裁の存在がある。象徴的なのは12年選挙の評価だ。
最高裁自身が「違憲状態」と断じた09年選挙と同じ定数配分だったにもかかわらず、国会での合意形成の難しさに理解を示し、「違憲」にまで踏みこまなかった。この考えは14年選挙の判決でも踏襲された。
最高裁は、その消極姿勢が政治を緩ませ、高裁の判断も縛ってきた事実を踏まえ、今度こそ憲法の番人としての使命を果たさなければならない。
導入が予定されるアダムズ方式も「よりまし」な制度でしかない。人口の多い都道府県への割り当てが相対的に少なくなる構造的な欠陥をもつ。
公選法は付則で、選挙制度について「不断の見直し」をうたう。国会、司法ともその意味するところを忘れてはならない。