最高裁、国会に注文も 1票の格差「絶えず改善を」 - 毎日新聞(2018年12月19日)

https://mainichi.jp/senkyo/articles/20181219/k00/00m/010/265000c
http://archive.today/2018.12.20-001107/https://mainichi.jp/senkyo/articles/20181219/k00/00m/010/265000c


「1票の格差」を巡る訴訟で、最高裁大法廷は衆院選では11年ぶりとなる「合憲」判断を示した。最高裁は昨年9月、参院選についても合憲判断を出した。半世紀も続く選挙制度改革を巡る司法と国会の「キャッチボール」は終わるのか。
大法廷は2009年の衆院選を巡る11年判決で、各都道府県に1議席を割り振る「1人別枠方式」を格差拡大の原因と指摘し、「違憲状態」と判断。その後も国会に厳しい判断を示し続けた。だが今回、最大格差が2倍以上にならないよう国勢調査の度に見直す仕組みを国会が構築した点について「安定的に持続する立法措置を講じた」と評価した。
かつて判決の中で、司法と立法の応酬を「キャッチボール」に例えた元最高裁判事の千葉勝美弁護士は今回の判決を「議員定数の是正は国会議員が最も手をつけにくいテーマ。長年キャッチボールを続けた結果、格差2倍未満を続けられる立法ができた。司法と立法の相互の努力が結実した」と肯定的に捉えた。
それでも、各裁判官の個別意見では、国会への厳しい指摘が目立った。
林景一裁判官は「格差約2倍を最終目標と考えるのは適当ではない」として「違憲状態」と指摘。1票の格差是正について「代表民主制の根幹に関わる問題。(国会は)絶えず改善を目指すべきだ」と促した。
鬼丸かおる裁判官は、格差が1・9倍を超える選挙区が28ある点などから「違憲」と判断。山本庸幸(つねゆき)裁判官は参院選を巡る昨年9月の判決に続き、選挙区の有権者数の全国平均を1とした場合に、0・8を下回る選挙区から選ばれた議員は失職するとの自身の見解を示し、都道府県や市町村を選挙区の単位とすることにも疑問を呈した。
最高裁判事として、格差是正を強く求める少数意見を述べ続けた泉徳治弁護士は「アダムズ方式に基づく選挙区割りはまだ実施されておらず、次の選挙に間に合わない可能性がある。是正を図ったと評価するのは不合理だ。不平等をなくす取り組みを国会に促すためにも、はっきりと違憲と言うべきだった」と多数意見に異を唱えた。 【伊藤直孝、蒔田備憲】
議論の機運高まらず
衆院議員定数を10減する改正公職選挙法などの関連法成立を主導した与党には、最高裁の合憲判断に安堵(あんど)感が漂う。関連法は2020年国勢調査の後、都道府県の議席配分で人口比をより反映しやすい「アダムズ方式」を正式導入するとしており、特に小選挙区では、暫定措置だった「0増6減」にとどまらない制度改正を迫られる。だが、選挙制度には与野党の利害や思惑も複雑に絡むだけに、新方式を具体化する国会の機運は高まっていないのが実情だ。
自民党は19日、最高裁判断に対して「合憲判決は、立法府の努力を評価して出されたと受け止める」とのコメントを発表した。
20年の将来推計人口を基に試算した場合、小選挙区は今後「9増15減」が必要になる。しかし関連法が成立し、計97選挙区で区割りが変更された昨年の衆院選以降、国会に議論を進めようとする空気は乏しい。特に自民党は人口の少ない地方に強い基盤があり、「人口比だけで考えるのは無理がある」(ベテラン議員)とし、地方から都会へ傾斜する抜本的な選挙制度改革には消極的だ。
一方、立憲民主党長妻昭代表代行は19日、記者団に「与党は『これでいい』と思ってもらっては困る。根本的な定数是正に取り組んでほしい」とけん制。国民民主党古川元久代表代行も「司法判断が出たからといって、そのままでいいわけではない。思い切った定数削減やアダムズ方式の導入前倒しをすべきだ」と語った。【田辺佑介】