<退位>日程、苦肉の策 官邸と宮内庁綱引き - 毎日新聞(2017年12月2日)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171202-00000010-mai-pol
http://archive.is/2017.12.02-003223/https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171202-00000010-mai-pol


1日の皇室会議で、天皇陛下が退位される日が2019年4月30日に固まった。退位日は新元号が始まる改元と関わるため、国民生活への影響が大きい。年末や年度末という区切りの良い日も検討されながら実現しなかった背景には、年末をめざした首相官邸と、それに反発した宮内庁による綱引きがあった。【高橋克哉、高島博之、遠藤修平】
菅義偉官房長官皇室会議後の記者会見で、退位日を2019年4月30日とした理由について、年度末は転居が多く、与野党が対立する統一地方選が19年4月に予定されていると指摘した。年度末で区切りが良い19年3月31日の退位日を選択しなかった理由を説明することに力点を置いた。
昨年の段階で、安倍晋三首相が最初に検討したのは国民生活への影響がもっとも少ない「18年12月31日の退位、19年1月1日即位・改元」だった。年の変わり目の改元ならシステム障害が起きにくく、国民にもわかりやすい。だが、宮内庁は元日の宮中祭祀(さいし)や国事行為の「新年祝賀の儀」など行事が集中することを理由に難色を示した。
それでも首相は「元日改元」にこだわった。菅氏とともに練り上げたのが「天皇誕生日の18年12月23日の陛下の退位、24日の新天皇即位、19年1月1日改元」の日程だった。退位、即位と改元の時期をずらし行事を分散させ元日改元を実現する次善の策だった。
ところが宮内庁はこれにも反発し、官邸に年末年始の皇室行事の一覧表を持ち込んだ。「12月から1月までいかに多忙かがわかる表」(同庁幹部)で、同庁は年末年始の皇位継承は難しいとの説明を繰り返した。19年1月7日の昭和天皇逝去から30年の「式年祭」は現在の陛下が行うべきだとも伝えた。「宮内庁は『とにかく年末年始だけはやめて』の一点張りだった」。官邸幹部は振り返る。
一方で宮内庁が今年夏ごろに提案してきたのは皇室行事が一段落する「3月31日退位、4月1日即位・改元」の日程だった。官邸も検討は進めた。だが、4月に統一地方選が予定されるなかでは「静かな環境」とはなりにくい。首相も10月ごろ、周囲に「なかなか難しい」と漏らすようになった。1〜3月は来年度政府予算案の国会審議が続く。夏には参院選がある。19年の政治日程を踏まえれば、残された選択肢は限られていた。
年度末の退位とすれば、宮内庁の言い分が通った形になるのを官邸が嫌ったとの見方もある。今回の退位は、陛下の意向によって始まった側面が否定できない。それだけに官邸には主導権を確保しておきたいという意識が強い。政府関係者は「陛下の意向をくんだ宮内庁が主導したとなると、(天皇は国政に関与しないという)大前提が崩れる。年度末の異動によるシステムの影響はあるが、それは後付けの理屈だ」と指摘した。官邸内では年末退位案が実現せず、中途半端な日程に収まったことに対し「宮内庁は伝統や格式ばかりを重視しすぎている」(政府筋)との不満もくすぶっている。

皇室会議、異論出ず
1日に宮内庁で開かれた皇室会議は、想定の1時間を超える1時間14分にわたる議論になった。出席者からは、天皇陛下の退位が国民の総意となる必要性や、国民と皇室に混乱が起きないよう注意喚起する声が上がり、議長の安倍晋三首相が退位を「2019年4月30日」とする意見案を示して集約した。政府高官によると、出席者から強い異論は出なかった。
午前9時46分から同11時まで行われた皇室会議には会議の議員10人が出席。退位を実現する特例法の担当閣僚である菅義偉官房長官も陪席した。
会議では、特例法の全文などの資料が配られた。「国民がこぞって陛下のご退位と皇太子殿下のご即位をことほぐにふさわしい日を選択する必要がある」との趣旨の発言のほか▽19年1月7日に昭和天皇逝去から30年の「式年祭」がある▽19年4月に統一地方選が予定される▽4月前半は国民の移動が多く、多くの行事がある−−ことに留意を求める声も出た。
首相は冒頭、会議の趣旨を説明し「退位・即位の日程についての意見を聴きたい」と発言。続いて菅氏が特例法の趣旨を説明した。そのうえで、首相が各議員を1人ずつ指名して意見を求め、議員は用意した文書を読み上げるなど意見を表明した。大島理森衆院議長は特例法制定に至るまでの経過を説明し、伊達忠一参院議長が賛同する場面もあった。
高齢の常陸宮さまや常陸宮妃華子さまの体調を考慮し、10人全員が発言して議論が一巡した時点で休憩を挟んだ。休憩中、首相は菅氏と別室で意見案について打ち合わせをし、議論再開後に提示。皇室会議の意見として決定し、出席者が署名した。
出席者による採決は行わなかった。山本信一郎宮内庁長官は記者会見で「皇室典範に基づく議決ではない。意見交換を踏まえてこういう意見がよい、という形で決定された」と説明。「(日程案が)複数示されたということではない」とも語った。