p5[コラム](余録)その人が触っただけで… - 毎日新聞(2017年7月1日)

https://mainichi.jp/articles/20170701/ddm/001/070/146000c
http://archive.is/2017.07.01-142923/https://mainichi.jp/articles/20170701/ddm/001/070/146000c

その人が触っただけで、いや近づいただけで実験機器や装置が壊れてしまう。物理学界で有名なこの伝説の主役、スイスの理論物理学者パウリは量子力学で大きな業績を残したノーベル賞学者であった。
パウリ効果と呼ばれた機器の破損は彼の実験下手が生んだジョークらしい。ただパウリ自身は心理学者ユングとともに、相互に因果関係がないのに意味の関連した物事が同時発生する現象−−「シンクロニシティー」の考察を行った。
たとえば「虫の知らせ」や「うわさをすれば影」といったことわざが示すところである。むろん科学的に検証できる話ではないが、ユングはそれらが人々の意識の奥底にひそむ太古からの「集合的無意識」の作用だと考えたのである。
では政権をめぐるこれらの同時発生は何なのか。加計(かけ)問題の逆風を受けての世論調査の支持率急落、魔の2回生議員の絶叫、首相側近政治家に相次ぐ加計問題や失言による野党の追及、週刊誌の「闇献金」報道への釈明の不可解……。
「泣きっ面にハチ」「弱り目にたたり目」も一種のシンクロニシティーだろう。少し前までは政官界のグリップを固め、「1強政権」の評価をほしいままにしていた安倍(あべ)政権である。そこを急襲した「悪いことは重なる」の嵐だった。
この先は内閣改造で厄(やく)を落として風の変化を待つらしいが、さて「丁寧に説明」はどこへ行くのか。凶事の同時発生の深層にひそんでいるのは、実は国民の疑問や不信を見くびる「集合的無意識」ではないのか。