(余録)古代アッシリアの図書館で… - 毎日新聞(2018年4月11日)

https://mainichi.jp/articles/20180411/ddm/001/070/092000c
http://archive.today/2018.04.11-014308/https://mainichi.jp/articles/20180411/ddm/001/070/092000c

古代アッシリアの図書館で粘土板の楔(くさび)形(がた)文字を読み続けた老博士、ふと気づけば文字が単なる線の集まりにしか見えなくなる。なぜこんな線に意味が宿るのか。そう考えた博士は「文字の霊」のしわざと気づく。
中島敦(なかじま・あつし)の短編「文字禍」である。老博士は文字を用いると目が悪くなるのも、物覚えが悪くなるのも、みな文字の霊のせいと断じる。今や文字に書かれぬ過去はなかったことになる。博士は大王に文字の霊の大いなる害悪を奏上した。
こちらの「文字禍」は財務省の文書改ざんに防衛省の日報隠しなど、文書をめぐるすったもんだで大揺れの安倍政権である。そして今度は愛媛県の職員の作成した「備忘録」が指し示す加計問題への首相秘書官の最初からの関与だった。
愛媛県知事は3年前に職員が秘書官と面会した際に作った記録文書につき、県庁では見つからなかったがその存在を認めた。文書には加計問題を「首相案件」と述べた秘書官の発言が記録され、県職員は自分が書いたと確認している。
職員の話通りならば、加計問題は国家戦略特区の正式案件になるより前に首相案件として首相官邸内閣府主導で走り出したことになる。当の首相秘書官は面会の記憶がないというが、安倍政権にすればまさに文字の霊の災いだろう。
小説の老博士は文字の霊の復(ふく)讐(しゅう)により地震で多数の粘土板に押しつぶされた。さて文字の記録をないがしろにし、政策決定のいきさつを闇に封じ込めてきた安倍政権、霊の復讐はいかなるものになるのか。