あなたはどっち? 憲法に緊急事態条項、必要か - 毎日新聞(2016年6月9日)

https://mainichi.jp/articles/20160609/org/00m/100/014000c?inb=ys
http://archive.is/2017.05.02-004357/https://mainichi.jp/articles/20160609/org/00m/100/014000c?inb=ys

基本的人権など国の根本ルールも、政府が停止できるようになる
7月の参議院選挙を前に、憲法を改正すべきかどうかの議論が活発化しています。憲法は103条からなり、国民が国の進む方向を決める「国民主権」、戦争をしない「平和主義」、個人が理由なく拘束されたり強制的に働かされたりしない「基本的人権」など国の根本ルールを定めたものです。議論のテーマはたくさんありますが、いま注目されているのが「緊急事態条項」を新しく設けるかどうかです。

緊急事態条項は、東日本大震災のような大災害が起きたり、他国が攻めてきたりという非常時に、政府に強い権限を与え、人権など憲法の決まりを制限したり停止したりできるようにするルールです。首相が「緊急事態」を宣言すると、内閣は法律と同じ効力を持つ命令(政令)を出すことができ、誰もが従わなければならなくなります。

条項が必要だと主張しているのは、主に安倍晋三(あべ・しんぞう)首相の所属する自由民主党です。党の幹部は「東日本大震災では散乱した車や家屋などを勝手に動かせず、救助が遅れた」と訴えています。普段の暮らしの中で個人の持ち物は憲法の財産権で守られています。持ち主に無断で動かしたり処分したりすることは、国でもできません。

ところが、大震災で被災した自治体の大半は「条項の必要性は感じなかった」と訴えています。憲法を変えなくても、大災害に対応する今の法律で車の撤去など必要なことはできると考え、むしろ「国より自治体の権限を強めてほしい」と主張しています。

◆賛成

世界の常識
緊急事態とは「普段の生活では想定できないことが起きること」です。「想定できないので、事前に必要な法律を作って備えることはできない。いざという時は法律を作る余裕もない。緊急時のルールを憲法に定めておくべきだ」というのが賛成派の主張です。

また「緊急事態では、国を治める憲法のルールを変更せざるを得ないことも考えられる。その際の対処の仕方を憲法に明記する方が権力乱用を防ぐ」という主張もあります。さらに「ドイツやフランスなど各国の憲法には緊急事態に対処するルールが明記されている。緊急事態条項は世界の常識だ」とも訴えています。

◆反対

独裁者生み出しかねない
「『緊急事態』を理由に好き勝手に物事を決める独裁者を生み出しかねない」と反対派は心配しています。憲法は、国民ではなく権力者が守るべきルールです。今の日本のように憲法に基づき政治が行われる「立憲主義」が、緊急事態条項によって否定される危険性が指摘されています。実際、戦前のドイツでナチスが「全権委任法」を成立させて憲法を無視する独裁を確立し、ユダヤ人などを収容所へ送った歴史があります。緊急事態条項が震災を背景に出てきたことから、反対派は「一足飛びに憲法を変えるのではなく、災害に法律で対応できるかをまず議論すべきだ」と主張しています。【東京社会部デスク・井上英介】