(声明) 新型インフル特措法「改正」と緊急事態宣言を発することに反対します - 子どもと法21(2020年3月10日)

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新型インフルエンザ等対策特別措置法」(特措法)の「改正」案が、国会に上程され成立されそうになっている。安倍首相は今回のコロナウイルス感染は特措法の新感染症に当たらず、現行法の適用はできないと判断する一方、「やるべきことはほぼ書き込んである」と述べ、議員立法での早期成立に向けている。だが、現行特措法でも十分な強制力があるにもかかわらず、さらに「改正」案を出そうとするのはどういう意図があるのか、どういう事態が想定されるのか、である。

現行法では次のような措置が可能となる。
全国的かつ急速なまん延により、国民の生活及び経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態となった場合、内閣総理大臣は「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」を行う(第32条
新型インフルエンザ等緊急事態において、以下の措置が可能になる。
外出自粛要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示(潜伏期間、治癒するまでの期間等を考慮) 都道府県知事は住民に対し外出の自粛を要請できる(第45条第1項)
また、罰則はないものの、多数の者が利用する施設(学校、社会福祉施設、建築物の床面積の合計が1,000平方メートルを超える劇場、映画館や体育館など)の使用制限・停止又は催物の開催の制限・停止を要請することができる(第45条第2項)
正当な理由がないのに要請に応じないときは、特に必要があると認めるときに限り、要請に係る措置を講ずべきことを指示できる。外出自粛や使用制限の期間は、新型インフルエンザ発生後の最初の1-2週間が目安とされている。
住民に対する予防接種の実施(国による必要な財政負担)
医療提供体制の確保(臨時の医療施設等) 臨時の医療施設を開設するため、土地や建物を強制使用することも可能である(第49条)

緊急物資の運送の要請・指示
政令で定める特定物資の売渡しの要請・収用
都道府県知事等は、新型インフルエンザ等の対応に必要な物資の売り渡しを業者に要請することができ、不当に応じない場合は収用することも可能である(第55条)。また、不当に売り渡しに応じなかった業者に対して、罰則を適用することもできる(第76条)
埋葬・火葬の特例
生活関連物資等の価格の安定(国民生活安定緊急措置法等の的確な運用)
行政上の申請期限の延長等
政府関係金融機関等による融資 

このように、これらは個人の自由や権利の制限につながるおそれがある。ゆえに日本弁護士連合会は本法制定時の2012年3月に反対声明を出した。
現行法は民主党政権時代に作られ、第5条において、「国民の自由と権利の制限は必要最小限のものでなければならない」と定められている。これまで特措法に基づく緊急事態宣言が出されたことはない。だがはたして、このような自制が安倍政権の下できちんと働くか、である。
安倍首相は、科学的な専門家の意見を聞かないまま、しかも管轄も権限もないのに2月27日、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、3月2日から春休み明けまで、全国の小中高校や特別支援学校を臨時休校にするよう「要請」。その「要請」を受け、ほぼ全校が休校している。
加えて、安倍首相は新型コロナウイルス対策として中国、韓国からの入国制限を強化すると表明し、3月9日から運用する。発生源になった地域からの入国制限はすでにしているが、これを全中国・韓国に拡大する根拠は示されていない。学校休校同様、根拠や効果の分析が乏しいまま、国内対策が後手との批判をかわし、首相の指導力を誇示する政治的な意図がうかがえる。これに対し韓国は、「不当な措置が事前の協議もなく取られたことは納得できない」と批判し、対抗措置として日本人に90日以内の短期滞在にはビザを免除してきた制度と、すでに発効されたビザの効力を停止するとした。このように今回の措置は、徴用工問題や「慰安婦」問題に加え、日韓の対立構造を更に拡大する「効果」しかない。
これら安倍首相の措置は、ダイヤモンドプリンセス号からの下船者を、伝染病予防法で隔離すべきだったのに、隔離しないで帰宅を認めたために、大きな感染拡大をまねいたこと、「検査させない」政策で感染状況を把握しようとしていないことなど、安倍政権の失敗を糊塗するためのものであり、上記のような唐突に大きな問題を含む措置を、科学的根拠なしに首相の権限で行使している。
街から人が見えず、子どもの姿もみえず、電車はすいている。子どもが公園で遊ぶと近所から「休校の趣旨にあわない」と学校に通報する地域の人、学校が保護者に注意する。集会は次々中止。図書館も公営施設もほぼ一律に閉鎖。市民の議会傍聴まで中止。この姿が「全国化」している。これは日本国憲法下にある日本の姿であろうか。
現行法でも緊急事態条項があるのではないか、その拡大は何が悪いのかと指摘する向きがあるかもしれない。確かに、抑制の取れた政府が、正確な情報を把握したうえで、このような法律を適用することができれば問題はないのかもしれない。しかし、法律上問題のある文言があれば、その条項が発動されるおそれはいつでもある。法律というのはそういう性質をもっているからである。安倍政権は、現行法を「改正」し緊急事態条項を使い内閣の権限を拡大しようとしている。自身のウイルス対策の失敗をこの法律「改正」に置き、私たちの私権・人権を制限しようとしているのである。
議会制民主主義をないがしろにし、都合の悪いことには一切回答しない、「なんでもあり」の安倍政権に、このような立法でさらなる権限を与えることは、あまりにも危険である。政府の対策を批判する集会すら開けなくなる。緊急事態条項は運用の余地が広く、強力な人権制限法になりかねず、政権の独断に法律がお墨付きを与えることになる。
この流れは「政府に権限を集中させる緊急事態条項」を憲法に設けることに通じる。2012年「自民党日本国憲法改正草案」98,99条、そして昨今示されている自民党改憲4項目にも含まれているが、改憲で緊急事態条項を入れれば、いちいち一つひとつの法律に緊急事態条項を入れる手間暇が省けるからだ。
だがもう一度確認してみよう。緊急事態条項がないのは日本国憲法が入れ忘れたのではなく、意識して入れなかったことを。
日本国憲法制定時金森徳次郎国務大臣は、①非常という言葉を口実に政府の自由判断を大幅に残しておくとどのような精緻な憲法でも破壊される可能性がある、②民主政治を徹底させて国民の権利を充分擁護するためには、非常事態に政府の一存で行う措置は極力防止しなければならない、③特殊の必要があれば臨時国会を召集し、衆議院が解散中であれば参議院の緊急集会を召集して対処できる、④特殊な事態には平常時から法令等の制定によって濫用されない形式で完備しておくことが出来る、などといって導入反対の答弁をしている。しかも日本国憲法は、前文に平和的生存権を謳い、9条で戦争の放棄と戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義を定めている。日本は平時から周辺諸国と平和で友好な関係を構築するための外交を実践することにより有事を理由とする緊急事態の発生を防ぐべきであり、戦時に軍隊に権限を集中することを認める「戒厳」や「非常大権」「緊急勅令」「緊急財源処分権」などという緊急事態条項を認めないこととした。
特措法制定当時民主党に属していた政治家の多くが、自分たちの作った法律だから大丈夫と軽信するのはあまりにもナイーブすぎる。安倍政権に強大な権限を与えることは、戒厳令に等しい状況をつくられてしまう危険性がある。こうした独裁政権と化した安倍政権の永続化につながる危険性もある。
緊急事態条項発動は国会の権限を奪うことだという認識を持つべきである。その認識と緊急事態条項の危険性を皆が共有すべきである。
特措法の「改正」と緊急事態宣言は、すでに私たちの自由と権利を躊躇うことなく制限し奪っている、安倍政権に強大な権限を与えることになる。

私たちはこれらのことを強く訴え、新型インフル特措法「改正」と緊急事態宣言を発することに反対する。