「GPS」判決 捜査手法に対する警鐘 - 北海道新聞(2017年3月16日)

http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0110994.html
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憲法が規定する令状主義に基づく当然の判断と言える。
最高裁大法廷はきのう、裁判所の令状を取らずに衛星利用測位システム(GPS)端末を取り付ける捜査は「違法」とする、初めての判断を示した。
GPS捜査は個人のプライバシーを侵害し得る強制捜査と明確に位置付けた。尾行などと同じ令状不要の任意捜査と主張してきた警察の運用を否定したことになる。
さらに注目すべきは、最高裁が現行の令状では十分でなく、憲法刑事訴訟法に適合する新たな立法措置を講じるのが望ましいと指摘したことだ。
そもそもGPS捜査は、事件に無関係の人のプライバシーまで秘密裏に侵す恐れがあるなど、問題が多い。
最高裁が法整備の必要性にまで踏み込んだ以上、GPS捜査はいったん停止するのが筋である。
大法廷が審理したのは、主に近畿地方で2012〜13年に起きた連続窃盗事件だ。
警察は捜査の過程で、被告の男らの車両19台にGPS端末を取り付けた。その是非が裁判の争点になっていた。
現行の刑訴法にはGPS捜査に関する明文規定はなく、警察の裁量で運用されてきた。
しかし、最高裁は今回、「個人の意思を制圧して、憲法の保障する重要な法的利益を侵害する」と指摘した。憲法に抵触しかねない危うい捜査手法だと言ったに等しいのではないか。
犯罪がハイテク化、広域化する中で、捜査の現場にとってはGPS捜査が役立つ面もあろう。
半面、「誰が、いつ、どこにいる」という位置情報は交友関係や趣味などにとどまらず、思想・信条の類推にまでつながる恐れが拭いきれない。
法的根拠がない捜査手法をこのまま続けていいはずはない。
まずは、GPS捜査の是非を含め、国民的な議論を重ねることが不可欠だ。法制化する場合も《1》対象者は嫌疑が十分な者に限る《2》対象犯罪の種類《3》捜査の期間―などを厳格に決める必要がある。
捜査を受けた者が不服を申し立てられる制度や、少なくとも事後に、捜査したことを本人に通知する仕組みも求められる。
刑訴法は刑事事件について、「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障」をまっとうしつつ、真相を明らかにすることが大事だとうたっている。
この精神を忘れてはなるまい。