GPS捜査 是非を含めた議論を - 東京新聞(2017年3月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017031602000139.html
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令状なしで捜査対象の車両に衛星利用測位システム(GPS)を取り付ける−。こんな捜査方法を最高裁大法廷は「違法」と明言した。プライバシーを侵害するだけに手法の是非から議論すべきだ。
GPS捜査はいわば「情報の押収」という点で通信傍受と似ている。通信傍受は法律で手続きなどの運用が厳格に定められている。捜査の対象者について裁判所の令状に基づかねばならない。
それに対し、GPS捜査は警察独自のルールで行われているのが実態だ。裁判所の令状を取ったケースもあるが、だいたい「令状なし」での捜査が横行している。
このような捜査は合法なのか−。実のところ裁判所の判断もばらばらだ。高裁レベルでさえそうだ。名古屋高裁は「令状は必要」としたのに、広島高裁は「令状は不要」と判断していた。
今回、最高裁大法廷は「プライバシーを侵害するため、強制捜査に当たる」との初判断を示した。同時に「令状がなければならない」とも述べた。
憲法三五条は家宅捜索や押収の場合、令状がないといけないと定めている。いわゆる「令状主義」である。GPS捜査は「情報の押収」に等しいのだから、憲法の精神に照らしても、裁判所の令状が必要なのは当然である。
最高裁も三五条を持ち出し、「この規定の保障対象には、私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれる」としている。
確かに刻一刻と移動する捜査対象者の位置情報をつかむことは、公権力による私的領域への侵入である。張り込みや尾行では私的スペースへの立ち入りは許されないからだ。しかも位置情報は二十四時間入ってくる。「監視」と同然の効果が得られる。
被疑事実と関係ない行動まで捜査当局につかまれてしまう。そのような性質があるため、刑事訴訟法で定められた現行の令状を用いることに最高裁は疑義をはさみ、「立法措置が必要」と求めた。
警察はGPS捜査を任意捜査として扱ってきたが、もはや通用しない。今後も警察がこの手法を使いたいなら、その是非について国民的議論が必要である。
有益な捜査方法だと合意ができたうえで、法律により厳格な要件や手続きなどを定めるべきである。だが、やはり個人のプライバシーを丸裸にする危うさを考える。最高裁の警告を受けて、GPS捜査は中止すべきである。