(筆洗)「おばさん情報網」 - 東京新聞(2017年3月1日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017030102000141.html
http://megalodon.jp/2017-0301-0920-34/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017030102000141.html

四六時中、「アントネット」の監視下に置かれ、問題を起こせば、ただちに通報された−。何やら深刻な近未来小説めいているが、さにあらず。米元国務長官コリン・パウエルさんの回想である。アフリカ系初の統合参謀本部議長といえば、顔が思い浮かぶか。
「アントネット」を日本語にすれば「おばさん情報網」。パウエルさんはニューヨーク育ちで親戚も近所に大勢、住んでいた。通学路にはおばさんたちの家が並び、窓辺で通りを見張っている。パウエル少年が悪さでもしようものなら、おばさんたちが両親に通報し、大目玉を食うことになる。
おかげで一族の若者は誰一人として道を踏み外さなかったと振り返っている。「僕の人生にはたくさんの人がかかわり、僕の成長を助けてくれた」
おばさんたちが聞けば、顔をしかめる数字かもしれない。内閣府の調査によれば、小学生がインターネットを利用する時間は一日約九十分。高校生にいたっては約三時間半にも及ぶそうだ。
友人との連絡や情報収集もネット上で行う時代とは理解していても、長すぎないかと心配する。睡眠時間への影響、身体への負担も気になるところだ。
しかも、傍(はた)からではネットで何を見ているか、どんな使い方をしているのかも分からない。「アントネット」の目が届かぬ世界に子どもたちはいる。祈るしかないでは済まされぬ問題である。