(筆洗)「粛々か?」「粛々だ」。政治取材の現場にいる時、記者と政治…-東京新聞(2015年4月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015040702000148.html
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「粛々か?」「粛々だ」。政治取材の現場にいる時、記者と政治家のこんな短い問答をしばしば聞いた。
分かりやすく訳せば、こんな意味だ。「反対意見がある。譲歩の用意はあるか」「譲歩しない。既定方針通りに進める」。言葉をそのまま受け取って「静かにやるそうです」と上司に報告しようものなら大目玉を食う。
静かにおごそかにという意味の「粛々」は鳥の羽音などを表す中国語から来ているが、聞く人の立場や事情で無慈悲な「宣告」にも聞こえる。米軍普天間飛行場の移設問題に絡んで、沖縄県翁長雄志知事が菅義偉官房長官に「粛々(に移設を進める)という言葉を使えば、使うほど県民の怒りは増幅される」と指摘した。もっともである。
「政治家はなぜ『粛々』を好むのか」(円満字二郎著)によると権力者の「粛々」は江戸時代の思想家、頼山陽の「鞭声(べんせい)粛々 夜 河(かわ)を過(わた)る」と関係がある。
上杉謙信川中島の合戦武田信玄に奇襲をかける場面の詩。ここから「集団が秩序を保って遂行する」というイメージが広がり、政治家の間で困難にも仕事を続けるという意味で使われるようになったと推測する。自己陶酔の言葉の裏側には泣く人もいる。
菅さんは今後、「粛々」を使わないそうだが、言葉だけの問題ではない。沖縄県と「粛々」と話し合いを。本来のおごそかな気持ちでという意味である。