トランプ大統領 なぜ批判を封じるのか - 毎日新聞(2017年2月28日)

https://mainichi.jp/articles/20170228/ddm/005/070/036000c
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おぞましいほど露骨なメディア選別と言わざるをえない。
ホワイトハウスの24日の定例記者会見が懇談に変わり、ニューヨーク・タイムズやCNNなど少なくとも10の報道機関が締め出された。
CNNなどが報道への報復だと反発し、ホワイトハウス記者会が抗議声明を発表したのは当然である。一般にギャグル(ガチョウの群れの意)と呼ばれる懇談は、もともと閉鎖的なものではないはずだ。
その数時間前、トランプ大統領保守系団体の集会で「フェイク(偽)ニュースは人々の敵だ」と演説した。ニューヨーク・タイムズやCNNなどを念頭に置いた発言だろう。
両メディアは昨年の大統領選中にトランプ陣営幹部がロシア情報当局者と頻繁に連絡を取っていたなどと報じた。こうした報道と懇談締め出しを関連付けるのは当然である。
しかも大統領は演説で、報道する場合は情報源を明かすべきだという趣旨の発言もした。報道の自由を重んじてきた米国で、こんなことを言った大統領がいるだろうか。情報源の秘匿は報道の自由の生命線であり、あまりに常識外れの発言である。
17日にも大統領はツイッターで一部メディアに対し「米国民の敵。病気だ」と述べた。直後に病気のくだりは削除したが、批判的なメディアへの激しい攻撃は一貫している。
1920年代から続くメディアとの夕食会に出席しないと言明したのも、何とも子供っぽい対応だ。
大統領が報道機関に不満を抱くのは珍しくないが、報道は国民の知る権利に基づいている。やましい点がないなら大統領は説明責任を果たして堂々としていればいい。
だが、トランプ大統領の場合は当選時に獲得した選挙人の数や、就任演説時の観客数も含めて、極めて明白な事柄にも異を唱えてきた。
白を黒と言い張る態度は、オルト・ファクト(代替的事実)という奇妙な言葉も生んだ。米政権の良識を疑う状況が続いているのは米国にも世界にとっても不幸なことだ。
既成メディアに対し、ネットやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の力が強まっているのは確かだろう。多くのメディアがトランプ氏の当選を予想できなかったことも時代の変化を感じさせた。
だが、だからといってトランプ政権が既成のメディアを排除する理由にはならない。自分の政治手腕に自信がないから批判を恐れるのではないかと思われるだけだろう。
いかにメディアを黙らせようとしても、国民の目をごまかすことはできない。歴史の評価から逃れることもできない。そのことをトランプ大統領は肝に銘じるべきだ。