(余録)笑いをとろうとしたギャグが… - 毎日新聞(2018年9月27日)

https://mainichi.jp/articles/20180927/ddm/001/070/100000c
http://archive.today/2018.09.27-000442/https://mainichi.jp/articles/20180927/ddm/001/070/100000c

笑いをとろうとしたギャグがまるでうけずに気まずい空気が流れるのを「すべる」という。芸人らの業界用語が、20年ほど前から若者の間で広がり、うけ狙いが外れた場合一般に用いられるようになった。
だから決めゼリフで見えを切ったら、予期せぬ笑いにあったのも「すべった」といっていい。トランプ米大統領が国連演説で「わが政権は米国史上のほぼすべての政権より多くを成しとげた」と言った時に起きた会場の失笑のことだ。
実はこれ、国内の支持者を前にした演説では喝采(かっさい)を浴びる決めゼリフという。だから笑いには当惑したようで、「こんな反応は予想外だが、まあいい」と苦笑、またまた会場の笑いを呼んだ。なぜ笑われたのかはご当人には謎のようだ。
ちょうど100年前、ウィルソン米大統領は米議会の演説で第一次大戦後の世界の14カ条の平和原則を提唱した。国際連盟創設につながったこの原則だが、聴いていた議員らが後に米国の連盟加盟を否決したのはご存じの通りである。
ウィルソン演説は当時の孤立主義の議会でみごと「すべった」わけだ。時代変わって国際協調や多国間協力に背を向ける米大統領が自画を自賛して国連で失笑を買った。すべった方向が正反対なのが、この1世紀の歴史を感じさせる。
総会冒頭、グテレス国連事務総長は「多国間の協調が最も必要なときに攻撃にさらされている」と述べた。名指しを避けた自国第一主義への批判だが、自らの演説時間にも大幅に遅刻したトランプ大統領だった。