https://mainichi.jp/articles/20200206/ddm/005/070/039000c
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目を疑う光景だった。トランプ米大統領が連邦議会に国政を報告する年頭の一般教書演説である。
議場に入場したトランプ氏に与党の共和党議員らが「あと4年」と再選を求めて叫び声を上げる。
国民皆保険を訴える野党の民主党議員を念頭にトランプ氏が「社会主義者による破壊」と非難する。
演説が終わるや民主党のペロシ下院議長が怒りをこらえきれずに議長席で何度も演説文を引き裂く。
与野党が対立するトランプ氏の弾劾裁判の最中とはいえ、これが米政治の現実なのかとがくぜんとする。
11月には大統領選が控える。トランプ氏の演説は、自画自賛が続く選挙演説のようだった。
「雇用は活気づき、所得が上昇し、貧困は減り、犯罪も減少し、自信は高まり、米国は繁栄して再び高い尊敬を集めている」
米国経済は確かに好調だ。トランプ政権発足後に伸びた指標もある。誇張に過ぎるとの指摘はあるが、「実績」としてアピールできるのは現職の強みに違いない。
一方で、移民政策や医療保険改革などで民主党を激しく攻撃した。対抗姿勢を鮮明にしたいのだろう。
しかし、一般教書演説は、取り組むべき政策課題を示し、その実現を議会に働きかける場である。選挙宣伝のためにあるのではない。
トランプ氏の政治手法は特異だ。自分の強固な支持基盤だけを重視し、異なる意見には耳を傾けず、徹底的に批判して排除する。
分断が深まる社会であればこそ、国のリーダーはその溝を埋め、敵対感情を癒やす努力をすべきだ。
だが、トランプ氏から、超党派による協力を促すことばは聞かれなかった。失望を禁じ得ない。
選挙戦が進むにつれて与野党が非難の応酬を繰り広げ、米国の分断がより深まる懸念がある。
製造業が衰え、移民や格差の問題が先鋭化する中、不満のはけ口が自国第一主義に向かう。
外交でも「米国第一」を掲げ、従来のルールや規範にしばられない手法を改めようとしない。
貿易戦争は「うまくいった」と胸を張り、同盟国に「公平な負担」を求めた。米軍駐留経費負担の交渉を控える日本にも影響を与えよう。