少年法と年齢 引き下げは弊害が多い - 朝日新聞(2017年2月14日)

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少年法の適用年齢を「20歳未満」から「18歳未満」に引き下げるかどうか、法制審議会の議論が始まった。18歳から選挙権を持つようになったことなどを受けた措置だ。
大人と子どもを分ける基準が複数あるのはわかりにくいという意見は耳になじみやすい。だが、少年の健全な育成を目的とする少年法については、くれぐれも慎重な対応が必要だ。
警察が捜査した少年事件はすべて家裁に送られ、育った環境や人間関係を調べたうえで、保護観察にしたり、少年院で教育を受けさせたりするところに、現行法の最大の特徴がある。

これが、大人と同じ刑事手続きに変わったらどうなるか。

多くの比較的軽微な事件は起訴基準に達せず、裁判になっても執行猶予や罰金が言い渡されて落着することが予想される。
少年の立ち直りに専門性をもつ人や組織がかかわる場面は大幅に減り、サポートを受けられなかった少年が再び道を踏み外せば、新たな被害者が生まれ、社会も傷つき、負担を負う。
一方、殺人を始めとする重大犯罪に関しては数次に及ぶ法改正で厳罰化が進んでおり、引き下げが量刑などに与える影響・効果は限られたものになる。
トータルに見て弊害や心配の方がはるかに多く、現時点で適用年齢を見直す必要性があるとは到底思えない。
大切なのは、個々の少年に最も適した処遇をして、法律に触れるような行いを二度とさせないことだ。それは、少年だけでなく、すべての被告・受刑者にあてはまる目標でもある。
その意味で、今回、法制審の検討事項に「懲役刑と禁錮刑の一本化」が盛りこまれたことは大いに注目される。
日本では刑務作業を義務づけられた懲役刑の受刑者がほとんどだ。このため、たとえば学力不足で社会になじめない者に学科教育を受けさせたいと考えても、十分な時間を充てることができないなど、社会復帰を妨げる一因となっている。
刑罰のあり方が見直され、作業が義務から外れれば、それぞれの特性や事情に応じた柔軟な対応も可能になる。半世紀以上前から提唱されながら実現に至らなかった刑の一本化が、本格的に議論される意義は大きい。
これを、少年法の適用年齢を引き下げるための条件整備の一環と位置づけるのでは、問題の本質を見失ってしまう。
大人の受刑者もふくめ、再犯を防ぐためにどんな制度を築くか。その観点から議論を深めるのが法制審の使命である。