(余録)古里の方言が懐かしくなるころ… - 毎日新聞(2016年12月19日)

http://mainichi.jp/articles/20161219/ddm/001/070/065000c
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古里の方言が懐かしくなるころかもしれない。年末年始に久しぶりに帰省する人も多い。岩手県から上京した石川啄木(いしかわたくぼく)が古里なまりを聞きたいと駅に行く。その気持ちは地方出身者にはよく分かる。JR上野駅のホームには、かの有名な歌の碑がある。<ふるさとの訛(なまり)なつかし停車場の……>
明治以降、政府は国の近代化を目指し、共通語の普及に力を入れた。一方、学校で方言の使用を禁じられた地方もあり、お国言葉の衰退を招く。沖縄では方言を使うと罰として「方言札」と書かれた板切れを首にかけられた。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は消滅の危機にある言語を公表している。世界の言語約6000のうち約2500に上る。日本ではアイヌ語八重山(やえやま)語、与那国(よなぐに)語、奄美(あまみ)語などだ。
アフリカのケニアは英語とスワヒリ語公用語だ。教育現場でもこの二つの言語を中心に使う。少数部族の言葉は廃れていく。部族間の交流が進んで共通語の使用が増えたことも影響しているようだ。
悲観する材料ばかりではない。NHKドラマ「あまちゃん」の影響もあるのか、若者の間で方言がよく使われているらしい。仲間意識や自分のよりどころを確かめる意味もあるのだろうか。東日本大震災で被災者は「がんばっぺし」の言葉に励まされた。方言は懐かしいだけでなく、心を動かす力がある。
方言で話すのが恥ずかしく、ためらうことがある。けれど忘れてしまうのは寂しい。<ふるさとの訛りなくせし友といてモカ珈琲(コーヒー)はかくまでにがし>。啄木と同じ東北生まれの劇作家・歌人寺山修司(てらやましゅうじ)の作品だ。彼は生涯、なまりが抜けなかった。