(余録)「9・11」といえば、今では2001年の… - 毎日新聞(2019年11月5日)

https://mainichi.jp/articles/20191105/ddm/001/070/065000c
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9・11」といえば、今では2001年の米同時多発テロのことだが、元々は1973年のチリ・クーデターを指すことが多かった。世界で初めて自由選挙で誕生した社会主義政権がピノチェト将軍率いる軍に倒された事件だ。
米中央情報局(CIA)が暗躍し、著名な歌手や文化人を含めた多数の市民が犠牲になった政変劇は「サンチャゴに雨が降る」(75年)、「ミッシング」(82年)など映画にもなった。
16年続いたピノチェト独裁政権は人権弾圧の一方、教育や水道の民営化など世界に先駆けた新自由主義的政策を実施し、民政復帰後も引き継がれた。順調な経済発展で「南米の優等生」といわれてきたチリも経済格差は大きい。
10月中旬、地下鉄など公共交通機関の値上げをきっかけに大規模な反政府運動が起きたのも格差への不満が背景にある。今月中旬に開催予定だったアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議も中止に追い込まれた。
有数の富豪でもあるピニェラ大統領は値上げ凍結や最低賃金引き上げを発表し、閣僚の首もすげかえたが、デモが収まる気配はない。わずか2週間足らずで危機が深刻化したことは驚きだ。
今年は香港での抗議デモに注目が集まったが、10月以降、中南米アラブ諸国、スペインなど世界各地で警察とデモ隊の衝突が続く。原因はそれぞれだが、SNSを活用する若者が主導する点は共通している。何が彼らを怒らせているのか。真剣に目を向けるべき、新たな国際問題ではないか。