(余録)幕末の英国初代公使オールコックは書いている… - 毎日新聞(2016年12月20日)

http://mainichi.jp/articles/20161220/ddm/001/070/099000c
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幕末の英国初代公使オールコックは書いている。「(日本人は)決して子どもを撲(う)つことはない。文化を誇る欧羅巴(ヨーロッパ)の国民がその子どもたちに盛んに加える、この非人道的にして且(か)つ恥ずべき刑罰法を私は滞日中に見たことがなかった」
教育にムチを使った欧州人が、日本人は子どもに体罰を用いないと驚いている記録は他にもある。ではそんな先祖をもつ国の学校の部活動やスポーツ界で指導に暴力を用いる悪習が根強いのはどうしたことか。作家の丸谷才一(まるやさいいち)さんは旧日本軍に由来すると述べていた。
つまり軍内の私的制裁が除隊した教師を介して学校にも広がったのだという。もともと日本軍はドイツや英国の軍をまねたというから、やはり火元は「文化を誇る欧羅巴」か。本家はとっくに宗旨替えをし、今では日本の学校やスポーツ界に残った「殴る」文化である。
福島県日大東北高校の相撲部顧問の教師らが部員をゴム製ハンマーでたたくなどの暴力をくり返していたという。デッキブラシでけがをさせられた部員もいたが、学校側は「行き過ぎた指導」と認めただけで、部内暴力の実態調査や教師の処分は行っていなかった。
大阪・桜宮高校での生徒の自殺をきっかけに部活動の暴力に厳しい目が注がれる近年だ。だが指導者の暴力を「指導」と受け取る生徒や父母も依然少なくないのが現状らしい。今回の学校側の対応の背景にも、選手強化を名目とした暴力を容認する文化がほの見える。
丸谷さんは鉄拳指導を公言したプロ野球コーチに「本当に殴る気なら外国人選手も殴ってみろよ」と書いた。そのコーチがやってみたかどうかは知らない。