(余録)「まもなく神罰がくだる」はよくある予言だが… - 毎日新聞(2016年8月17日)

http://mainichi.jp/articles/20160817/ddm/001/070/175000c
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「まもなく神罰がくだる」はよくある予言だが、すぐにフランス王に侵攻されたので予言は神の言葉「預言」と受け取られた。15世紀末フィレンツェ、市民はこう予言した修道僧サボナローラを預言者として熱狂的に迎え、市の実権を委ねた。
後にマキャベリは「武装せる預言者は勝利し、備えなき預言者は滅びる」と「君主論」に書く。その「備えなき預言者」の代表とされたサボナローラだった。彼は神権政治を行い、ぜいたく品の焼却などをくり広げたが、市の繁栄を期待した市民の心は離れていった。
サボナローラは政敵に「預言者は火に焼かれない」と火中を歩く試練を求められ、市民の暴動にもあって失脚、処刑された。彼は宗教改革の先駆者とも評価されているが、政治家としてはマキャベリのいう通り落第だろう。
こちらは数々の排外過激発言で喝采(かっさい)を浴びて米共和党大統領候補となったトランプ氏である。しかし、いざ候補となってみれば同じ口から出る言葉が相次いで失言、暴言との批判を招き、支持率を急落させている。窮した当人はメディア批判による責任転嫁(せきにんてんか)を始めた。
最も激しい非難を浴びた失言はイスラム教徒の戦死兵士の家族への侮辱で、なるほどこれでは軍最高司令官たる大統領はつとまらない。他にクリントン氏の暗殺を促すかのような発言など、相変わらずのうけ狙いの暴言が大統領欠格を浮き彫りにするパターンである。
「米国第一」の預言者もまた備えのないところを選挙戦の入り口でさらけだした。どう預言者を気取っても火の中は歩けない。この先どうあれ世界が見たくないのは「核武装せる預言者」だろう。